ミックス | ナノ


▼ 少女と覚

今日も彼は一方的に私に話をしてくれています。
いつも縁側で楽しそうに声を弾ませる彼を見ているだけで私も楽しくなるのです。



「それでね、昨晩読んだ本は本当に面白かったんだ! 君にもおすすめするよ。ふふふ、早く寝てください? 俺は平気だよ。だって君よりうんと年上なんだからね。ちょっとくらい平気だよ。
私が心配なんです。万が一体調を崩されたら悲しくなります。
そんなことで体調をくずす俺なんかじゃないよ! 俺は君が思ってるより頑丈だから心配しなくてもいいんだよ。
でも……。
平気だって! それよりも俺の話を聞いてほしいな。そのほうが俺も幸せなんだ。だって俺の話を聞いてくれているときの君が楽しそうだから俺も楽しくなっちゃう!」



私は彼よりも一回りほど小さな頭を上下に動かして彼の声に耳を傾けています。私は声を出せなくても彼は私のぶんの言葉をしゃべってくれる。私たちは会話をしています。客観的には一方的に彼が話をしているようだし、実際に声を出しているのは彼だけなんだけれども、私と彼の会話はこれなのです。

私のできないことを彼が全部補ってくれます。私も彼を支えているつもりですが、彼に私は必要なのでしょうか。私は事情があって声を奪われてしまいました。だから私には私の『声』を聴いてくれる人が必要だったのです。それが、彼。サトリという妖怪の、彼。サトリの彼は人の心が読めます。私には彼が必要なのです。言葉を発せられない私にはそれを解ってくれる彼が。しかしそれは私が一方的に思っているだけで彼はどうなんでしょうか? 少し怖くなって、私は彼の目ではなく庭の桜に視線を移しました。



「――。
そんなことないよ」



彼が、私の小さな頭に大きくて暖かい手を載せて優しく撫ででくれました。
どうして撫でたのか不思議でまた彼の優しい目を見ました。



「俺は君に……初に助けられたんだ。死にそうな俺を助けたのは唯一無二の初だよ。初には感謝してる。それに、今の俺は初なくして生きられないくらい君が好きなんだ! 大好きなんだ!
うふふ、二回も繰り返しては恥ずかしいです。
えへへ。でも俺はそれくらいじゃ足りないくらい初が大好きなんだよー! だからそんな悲しいこと考えないで? 初が俺に思ってることは俺もおんなじだよ。俺は初がいないと生きられないんだから、十分補ってくれてるよ! ありがとう」



まだまだ幼い私に彼――雪之丞は優しく微笑んでくれます。私はそれが嬉しくて、雪之丞の言葉が嬉しくて一生懸命笑いました。心を読まなくても私の気持ちが伝わるように。







(大好きなんです)
(大好きだよ)
   

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