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▼ Relation

「で、今日はどうすりゃ良いんだろ、俺」



困った仕草を見せる日暗を見て、シングは腕時計を見た。キラリと銀色に光った腕時計はちょうど夕食時を指している。ちょうどいい、とシングはひとり頷いた。



「そろそろお腹も空くだろう。食堂まで行くのと同時にここを軽く案内しよう。食堂では今回の仕事について話をしたいのだが、いかがか?」

「もうそんな時間だっけか。いいぜ、賛成っ」

「よかった」



シングとミルミのあとについていくかたちで日暗はそのあとにつづいた。来客用のエレベーターまで案内され、そこに乗り込む。
来客が自由に動けるのは一階と四階が基本であるが、用もなく歩いていては諜報部に怪しまれる。とくに白衣を着ている研究部に捕まってはいけない。ここではなかなか見られないあちらの能力者だ。何をされるかわからない。ちなみに二階と三階は一部のメンバーが使う寮になっている。出歩くなとは言わないが面白いものがあるわけではない。五階以上になると魔術、召喚術の結界が張ってあって、関係者以外は入れないようになってる。一階は知っていると思うが、来客の宿泊部屋と応接室がメイン。四階は娯楽系の施設が多い。大浴場や食堂、談話室……。あとは外部の組織と会談する会議室とかもあったな。これは娯楽ではなかった。
つらつらとシングの口から説明が流れ、ミルミはときどき「あれが談話室です」と指をさして示した。

食堂に到着し、三人がすべてを食べ終えたころに仕事に話は持ち出された。ミルミはデザートと称してクリームとチェリーが乗ったプリンを食べているが、シングは話を開始させた。



「簡単な説明はツバサから受けているとおもうが……」

「ああ、聞いてるぜ。雪国が独立戦争してて、その武器庫を壊すんだろ?」

「だいたいな。より詳しくいうなら、『独立戦争』は、『独立』した能力者が『戦っている』ことだ。国を独立させよう、だとは意味が違う。それと雪国は特殊な国でな……。異能者を虐待する国なんだ」

「虐待? 俺たちのほうの差別とは違うってことか?」

「日暗さんはやはり勘がいいようだな。つまりそういうことだ。と、いっても俺たちは詳しくそちらの情勢を知らないのだがな。雪国は宗教柄、異能者を迫害する。発見し次第収容して殺す。俺たちが向かうのは、異能者と共存が成り立ったこの発展国と雪国の国境にある都市だ。異能者収容所はないが、代わりに発見すればその直後に死だ。この仕事は面倒なことに殺しは一切禁止。雪国はデリケートだから国際問題になりかねない。あくまで武器庫の破壊が今回の依頼だ」

「殺すのはいけないのか……。まあ、大丈夫だ。俺が足をひっぱる心配はしなくてもいいぜ!」

「ああ。はじめから心配はしていない。むしろ頼りにしている」

「……! おう」



ストレートに、あっさりというシングの言葉に一瞬だけ戸惑ったが、日暗は笑って返事をした。
もくもくとデザートを頬張っていたミルミは、最後の一口を飲み込む。シングの話が終わったのを見計らって日暗の表情をうかがうように話しかけた。



「私とマスターはわけあって常に一緒でなければなりません。どんな些細な理由であれ、離れることは許されないのです」



ミルミの表情は一切変わらない。人形のように、決められたセリフを淡々の喉から発しているようでもあった。彼女の言うことに口を出す気はないのか、シングは椅子の背もたれに体を預けている。日暗はどこか訳ありのような雰囲気を察した。



「それはミルミちゃんがシングくんのことを『マスター』って呼ぶのと関係があるんだな?」

「はい、そうです。いつ敵になるかわからないあなたに、この弱味を教えるのはもしもの時にためです。手分けをするときに不信感を抱かれては困りますので」

「ん、了解」

「では日暗さん、明日の朝に部屋までミルミと共に迎えに行く。準備があるなら朝までに済ませておいてほしい。それまでは自由だ」


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