▼ Relation
ガタンゴトン
ガタンゴトン
異能者が存在する国に足を踏み入れ、一行は汽車に乗り込みはや数時間。子守唄のように揺れる汽車から出、駅の外に立てば、そこは人で賑わう昼の都会が姿を現した。まるで波のような人。沢山の音が入り雑じり、何が何の音なのか全てを聞き分けるには非常に難しい。
それを一番始めに見た日暗は目を輝かせた。
街の広場では異能を交えた音楽業界の卵たちが個性あるバンドの曲を披露している。ドラムがスティックを振る度にキラキラと火の粉が舞い、ボーカルが音を奏でれば歌詞に合わせて風が吹く。ギターやベース、キーボードの魔術が、バンドのメンバーが演出ある曲を奏でていた。
見たこともない賑やかな街並みに日暗は胸が踊る。ここはまったく別の世界だ、と。
「こっちですよ」
立ち止まったままの日暗にシドレが呼び掛け、四人で立体駐車場までいくとアイが運転する車に乗り込んだ。それからまたいくらか時間が過ぎると、ひとつのビルの前にたどり着く。周りのビルはどれも高く、これも高層ビルになるのだが、とくに目立つわけではなかった。
「なあ、ここが?」
「はい、私たちの組織が拠点を構えるビルです」
表の看板には会社名が書いてあったがカモフラージュしているのか、と日暗は納得する。
ロビーの中に入れば、その中には受付に白衣を来た眼鏡の男性が受付嬢と何か会話をしていたり、ロビーにあるソファーのうえにスーツを着た老人男性が静かに座っていた。
アイは二人いるうちのもう片方の受付嬢に話し掛ける。
日暗はじっと周りを観察して待っていた。
アイが戻ってきて、日暗にソファーに座ってもらう。暫くするとエレベーターの扉が開いて金髪碧眼の男性とゴスロリ姿の少女が姿を現した。シドレたちが彼らにお辞儀をしている様子から、男性が彼らの上司なんだろう、と憶測する。
少女である可能性もあったが、能力者のように外見年齢がかてにならないわけではないので、幼い少女がボスなわけがないだろう、と考えた。
「はじめまして、こんにちは」
男性の――ツバサの第一声はそれだ。悠々と一礼して見せるツバサは、やはりボスとしての貫禄があるように思える。
見た目は若いのに、ツバサの内面は年齢と釣り合わない。そんな気がして日暗は首をかしげた。
互いに自己紹介をしたあと、ツバサは日暗を連れて応接室へ向かった。シドレ、アイ、ワールとは別れる。ツバサの後ろに黙って付き従う少女はツバサに「リカ」と呼ばれて顔を上げた。
「日暗さんにお茶を用意してきてもらえる?」
「わかった」
リカはツバサと離れて行く。日暗はそれを静かに見ていた。
「あの子、将来は有望だな」
「そう? 無愛想な子だよ。世話焼きでもあるから文句もたくさん言うしね」
すこし疲れ気味にツバサはため息をした。ここだ、と日暗は応接室に入れられて柔らかいソファーに座る。あらかじめツバサが座るソファーの前のテーブルには白い紙が何枚か置かれており、ツバサはそれを確認してから口を開こうとしたが、直後にリカがやって来た。
ツバサが言う通り無愛想で、日暗とツバサの前にお茶を、というか紅茶を出した。リカはそのままツバサが座るソファーの後ろに目を閉じて静かに立つ。
「ではお話をしましょう」
「ああ」
「シドレからの連絡で聞いてるよ。職場体験だっけ? 定期的な連絡にも敵意があるようには見えなかったらしいし」
にこにこ、とツバサは笑っていた。日暗が面白いとでも言うかのよう。それに対して日暗は相変わらず陽気に振る舞っていた。
「お! じゃあ職場体験は合格か!?」
「こちらとしても能力者という者を知っておきたいからね。歓迎しますよ」
「よっしゃ!」
「ただ、問題は仕事内容。俺は情報を専門にしているわけなんだけど、デリケートな仕事だから日暗さんを受け入れることはできない。同じ理由で研究も無理。まあ、アイツなんかに能力者を渡したらどうなるか分からない。残るは暗殺と傭兵。けれど暗殺は交渉に乗ってはくれない」
「ふむふむ」
「と、いうことで傭兵だね。仲介役するんだからきちんと代償の情報、貰うからね」
「うぇ」
「じゃあ、仕事の説明するよ。日暗さんが付いていく形になるね。付いていくのはシングとミルミに。二人とも知ってるよね? 前回接触した二人組だよ」
「ああ、あいつらね! うんうん」