▼ strange station
気が付いたら知らない駅に着いていた。
ぽー、とした頭のままイヨは辺りを見渡してみる。近くにも遠くにもある山々と、広く広がる住宅。田んぼがところどころあるのんびりしたところだ。右を向けば建物が増え、道は綺麗に整備されており、人気がある町のようなものがあった。
よくわからないまま、イヨは取り合えず町へ向かってみることにした。
人が多いわけではないが、少なくもない。まあまあに活性した町だった。その中でイヨはキョロキョロとあちこちを見ていた。
なにかが違う、と。
能力者を狩るような軍がないのは一目瞭然。だからといって異能者がいるわけでもない。ただ、ひたすら人間しかいないのだ。正確には人間だけだと言い切れない。奇妙ななにかも混ざっている。それはただの、勘のようなものであるためイヨにははっきりしなかった。
「副委員長に言っておいてよ。なんで図書委員でもないオレと雄平が図書館で仕事しないといけないのか」
「そうだぜ。先に帰った副委員長に言ってくれよ。せめて副委員長も残業すべきだろ」
「図書委員は実質二人だけだからソラと雄平の手がないと大変なんだよー」
「じゃあがんばって勧誘しなよ。どっかの部活が強制的な勧誘してるみたいだけど後藤さんもあのくらい強気になってもいいんじゃない?」
見ず知らずの奇怪な土地で行き場に困っていたイヨの耳によく知った声が届いた。ソラだ。イヨはソラにこの場所のことを聞こうとして声を辿った。しかし見つけたソラは何かが違っていた。そうだ、男装をしていないのだ。女子生徒が着るような学生制服を着ている。
ソラに違和感を覚えながらもイヨは話し掛けた。
「こんにちは」
まずは普通の挨拶。これはよくする。しかし普通ではないのがソラの表情だ。「この人は誰?」というような目をしていることも一目瞭然。ソラだけではなく、知らない他の二人もそんな表情をしていた。
「どうしよう。英語喋れないんだけど……」
「俺だって喋れねえよ。成績優秀な後藤、出番だ!」
「ていうかこの女の人、日本語喋ってるんだから英語の必要はないよ……。
えっと、こんにちは」
イヨの頭のなかには「?」が大量生産された。まるでソラは自分のことを忘れているような。いや、知らないような。
イヨが困っていると、「お姉さん」と声をかけられた。声がした方へ振り向けば金髪碧眼の少年が自分を見上げている。「ついてきて!」とイヨの手をひいて少年は駆け出した。イヨはつられてしまう。ソラたちとは曖昧な別れ方をした。
少年はイヨが降りた駅まで走った。駅に着くと少年は手を離す。少年からはなにか奇怪な気配がした。
「たまにいるんだよね。迷っちゃう人」
喋る少年はイヨと握っていなかったほうの手を差し出した。広げた手の上には切符。
「次の電車だよ。お姉さん、居眠りはしちゃダメだよ? 自分の降りたい駅を見逃しちゃう」
「君は……」
「ああ、ほらほら! 来ちゃった! 電車電車! 乗らないと次は一時間後だよ!」
ぐいぐいと改札口まで少年はイヨの背中を押した。イヨはその胸に浮かんだ何かを言おうとしたのだが、少年はすでに手を振ってイヨを送る体制になっていた。イヨは諦めて、小さく手を振り返すと電車に乗った。きっと言ってはいけないのだ。
イヨはこのすこしの間にあった奇妙で奇怪で不思議なことを静かにおさめた。
まるで変な夢のようだった。
しかし電車に足を踏み入れた瞬間、それまで何があったのか思い出せなくなった。
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世界はサガシモノっぽいですけれどSSSです。一応、全部SSSに出したものばかりですのでギリギリ