▼ World fusion
「……はーっ」
シングは日暗がいなくなったとたんに、思いきり息を吐いた。ため息だ。左の肩を右手で揉む。
「能力者とは不思議なものだな……。異能者と存在が全く別だ」
「そうですね。能力のほうはよくわからないので、ありのままを報告してみましょう」
「ソラなら良眼能力で少しは解りそうなのにな。俺の、ただの眼ではよくわからんな」
「……」
「ははは」と笑うシングを見上げながらミルミは日暗がつい先ほどまでいた場所を見つめた。
最後に言った「暇になったらそっちに遊びに行くかも」。異能者と能力者が敵ではない立場で出会えるのかもしれない、と、まだ見ぬ不確定な未来を想像したのだった。
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「なるほどー」
アイの報告を受けてツバサは笑った。紅茶を飲みながら報告書を机に置く。渡されたメモリーをパソコンに挿し込みながらアイに言う。
「シドレとワールがいないけどどこに行ったのかわかる? ついでにルイトも」
「シドレは能力者に興味があるらしくて自室にこもってる。ワールは道連れだな」
「どこまで情報収集ができるか幹部の手腕のみせどころだね。俺からの仕事はないけど、アイは今日予定あるの?」
「このあとシドレの雑用……、あ、シドレが外出許可が欲しいってさ。能力者関係で」
「熱心だね。様子でも見に行こうかな。それ次第」
「ツバサ自身の仕事はいいのか?」
「なんのこと?」
「……」
紅茶を飲みきり、パソコンをいったん閉じてツバサはアイの背中を押して書斎の扉を開けた。
アイはバランスを崩してその場に倒れた。ツバサに強く倒されたのだ。ツバサはアイの目の前にいる。
「出会い頭に魔術で攻撃するなんて、馬鹿? ……ああ、ごめん。聞くまでもない大馬鹿だったね」
「ふん。脳がない軽い頭に言われても説得力がないな」
アイは状況を理解した。
ツバサの前にリャクがいたのだ。リャクの後ろには居心地が悪そうなナナリーが苦笑いをしていた。
ツバサとリャクがおなじ空間にいるとなると、いよいよアイは命があるか不安になった。
「能力者の情報を買いに来た。貴様に頼むなんて癪だが仕方がない。研究が最優先だ」
「なにそれ建前?」
「そこの千里眼に聞いた方が精神的に安定するな。貴様は用なしだ。失せろ」
「チビに見合ったその小さな手にある研究レポートのコピーが欲しいから交渉成立でーす」
バチバチとなる静電気を纏ったリャクと、関係がないアイまで冷や汗を流すほどのツバサの殺気。話が安全に続くとは思えず、アイはサングラスの奥にある赤い眼を逸らした。