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▼ World fusion



ふむ、とシングは顎に指をそえた。

シングはソラやルイトよりも戦線に立って戦う経験は多かった。ソラより幼い頃に、すでに人を殺している。その経験から出る結論は、飄々とした態度の日暗にはどう足掻いたって戦えば負けるということだ。温故知新の言葉が似合うソラのボス、ウノを知っているせいで、態度だけで相手を決めつけることはできない。ことも知っていた。

どこかにいるルイトが話を聞いているだろう。千里眼で常に警戒しているアイはこの状況を見ただけでわかるはずだ。それでも何も言わないのは、きっと言っても大丈夫だということ。

日暗の話が偽りでないこともわかっていた。ツバサが気まぐれで「能力者は長生きをするらしいから経験豊富の先輩だね」と何気なく言っていた。ツバサがどこまで能力者のことを知っているかはわからない。少なくとも革命組織のことは知らないだろう。もし少人数が相手だと分かっていたなら、今回の任務に適したテレポーターのミントや、ウノの部下であるシャトナとレオも投下すればいいのだから。数が多い方が仕事も効率的。
今回の任務はツバサが主導権を握っているため、どうしても情報収集が優先されてしまう。全体的に手を抜くよう言われていたため、本気で戦う革命組織には負けるだろう。ならば手土産に情報を持って帰ってもいい。



「……異能者の特徴、だな」

「マスター、本当にいいのですか? やろうと思えば私たちは情報を提供せずに帰還することが可能です」

「分かっていて口を出しているだろう、ミルミ。それは詐欺だ。ビジネス違反は良くない」

「……すみません」

「いや、心配をしてくれたんだよな。ありがとう」



ミルミは後ろで組んでいた手をほどいた。シングはミルミに微笑むと、日暗との話に戻った。
日暗は良くできた信頼関係だな、と観察している。



「貴方の言う通り、組織と異能者についてだ。ただ、わかっているとはおもうが、組織のことはあまり話せない」

「ああ、わかってる。それはこっちも同じだしな」

「ならよかった。まず、うちの組織は革命組織より人数は多い。一見ひとつの組織にみえるが、中は4つに別れている。が、別に敵対はしていない。協力体制だ。これに関してはこれ以上答えられない」

「へえ、4つに……ね。それってつまり、ただ専門ごとにわかれてるって感じなのか? ほら、会社でいう営業部とか人事部とか」

「それとは違うな。次、異能者についてだ」



日暗に質問はさせないと、話題を終了させて次へいくことにした。
その間、ミルミは何も言わず、日暗はふむふむ、と何度も頷いてみせた。



「どこから話せばいいのか迷うのだが……、まず種類だ。異変的能力者……略していうなら異能者には能力者、魔術師、召喚師、封術師の4つにすべて分けられる。この中で能力者が多く、封術師が圧倒的に少ない。能力者はさらに、普通型能力者、特化型能力者、秘密型能力者に部類される。普通型能力者は一般的に火やら水やらを操る。特化型能力者は人間がもともと持つ能力が異常に特化していることだ。秘密型能力者は……、まあ、チートだよな」

「はい、チートですね。基本的には敵にまわしたくない異能者です」

「異能者の寿命は貴方たち能力者とは天地の差があるほど短いな。寿命の上限は50歳。俺の知り合いには30歳を越えずに必ず死ぬ一族もいる。その原因は異能を操作する脳がどうとか……知りたければ交渉して専門家に聞いてくれ。素人ではうまく説明ができん」

「へー……」

「如何かな、隊長サマ?」


シングなにか試すように腕を組んで日暗の目を、その血にも似た真っ赤な眼で真っ直ぐみた。日暗は頭の中で整理したあと面白そうに「ふーん」と口から溢した。



「質問。この女の子、どうしてお前のことを『マスター』って言うんだ? 趣味?」

「趣味なわけあるか。ミルミがそう言っているだけだ。それに、あまり個人情報に踏み込んでは『契約』違反だ」

「個人情報だなんて知らなくて。悪いな」

「知らないのだから仕方がない。許さないわけではないからな」



日暗の実力、経験、年齢が自分より圧倒的に上でも一切取り乱さず、むしろ余裕のある態度で接するシング。日暗は異能者に少しだけ興味を持ちながら何度も首を縦に動かした。



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