▼ World fusionU
「あー、聞こえるか?」
司令部である建物をみることができる静かな場所にアイは無線機のスイッチを入れて話しかけた。無線で繋がるのはルイト、シドレ、ワールの三人だ。
サングラスの内側にある赤い目が司令部のほうをまっすぐ見ながら三人に指示を出す。
「敵が動いた。空間転移がいる。気をつけろ。まず最上階、そしてその二つ下、一階、外に分かれている。ソラが最上階に行ったし、外はシドレに任せる。ルイトはソラに近い方がいいだろうし、お前は上から二つ下な。んで、ワールは余った一階だ」
『わかった。つかルイト、無線大丈夫か? うるさくねえ?』
『うるさいから切っていいか……。全員の声なら無線なくてもイヤホン越しで聞こえる』
「じゃあお前は切れ。ルイトの動きは俺が見える」
ブツ、と一つ音が切れる。千里眼をもつアイの目には無線の電源を切りながら階段を上るルイトが確認された。
「シドレとワールは敵に遭う前にディスクをコピーしろ。二階の東に保管室が見える。シドレが道具を持ってるから急げ。任務も遂行しないと信用がなくなる。これはまずい」
『ええ、分っています。シングさんたちの様子はどうですか?』
「まだ敵と鉢合わせしていない。あ、能力使った」
『ちゃんとメモしとけよ。補佐のリカとサクラに説教されるよりツバサの『お仕置き』のほうが怖いんだしよ』
アイは幼馴染二人が保管室に入ったのを確認すると相手の革命組織の見た目の情報を持っていたメモに書き写し始めた。
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すれ違う兵士の間をすり抜けてルイトは腰に巻いているベルトについた筒から弓矢を取り出した。筒の大きさからは考えられない長さの弓。これは筒の底に召喚師によって描かれた陣があるのだ。これはトラップ系の術で、ルイトはいつでも弓矢が引き出せるようになっている。
「?」
ルイトは立ち止まり、イヤホンを片方はずした。瞬間、に怒涛のように流れ込む音と音の中でシュッと風を切るような音を聞いた。そして視界のなかに一人現れる。
まるで女と疑いそうになる顔立ちの青年がいたのだ。体つきは疑いようもなく男。たまにいる女顔の男か、と弓に矢を添えながら彼を見た。アイが言っていた空間転移はおそらくこの女顔の男だろう、と思っていたら「そいつが空間転移だ」と司令部にいるアイの声は良聴能力で聞き取れた。
「君が異能者?」
「お前は革命組織みたいだな」
「……。ねえ、本当は戦うの面倒だって思ってない? だって君たちの本命って」
ルイトは相手の言いたいことが分かった。彼は――十闇は、ルイトたちの本命が指揮官を守るのではなく軍の情報を盗むことなのだと理解したのだ。その魂感知という力で。
十闇が言い終わる前にルイトは弓を構えて矢を放った。しかしその矢は十闇か能力でさらりとかわしてしまった。
その一発で矢では無理だと判断したルイトは弓を筒の中に戻した。大きさの見合わないそれに一瞬驚く十闇だったが、異能でなにか仕掛けてあるんだろう、とすぐに解決してしまう。
ルイトが次に取り出したのは拳銃。
「ねえ、待ってって! 本命は指揮官を守ることじゃないんでしょ?」
「指揮官を護ることはれっきとした仕事だ」
「なんかそうじゃなくて、いや、そうなんだけど……」
「敵に話すことなんかねえよ」
ルイトはそう言うと目を閉じて十闇に銃口を向ける。十闇は銃弾をテレポートして避けていくのだがこれでは埒があかない。目を閉じているにも関わらず狂いもなく、むしろキレがよくなり、十闇はルイトが持っている拳銃をテレポートで自分の足元に出現させるとそれをさらに遠くへ蹴った。これで武器はなくなったも同然。弓は取り出して構えるだけで少し時間がかかる。
拳銃を見送ったそのとき、視界の隅っこにいたルイトが十闇に向かってなにか投げ、いそいで避けた。その正体は矢。反射的に避けた十闇は弓で構えず矢を投げるなんて、と目を開けたルイトを見た。
話を聞いてくれそうにないルイトは相変わらず敵意を十闇に向けている。
「わ!」
「うわ!?」
そんなルイトの後ろから全身が暗い色でまとめられた服装の少年が現れ、イヤホンをつけていないルイトの耳もとで大きな声を出した。ルイトは振り返り、その正体を確認すると眉間にしわを寄せてイヤホンをつけながら怒った。
「うるせえソラ! 耳元で騒ぐなって何度言えばわかるんだよ!」
「つい」
「なにが『つい』だ!!」
怒鳴るルイト。それに無表情ながらも楽しそうにいたずらを繰り返すソラ。
ふと十闇はよく知るイヨが近くに来るのを感じとった。
「十闇」
「あ、イヨ! この様子だと終わったの?」
「ああ」
笑顔をみせる十闇に、得意げに微笑んでみせるイヨ。十闇は蹴り飛ばしたルイトの拳銃を拾って本人に返しに行った。