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▼ 百花繚乱:Quarrel


異能者、能力者が通う特殊なこの学校では喧嘩など日常茶飯の出来事だった。
若い者が自分にだけある、他のものにはない個性――力を比べて勝ちたいと言う勝負心ゆえの喧嘩。異能者、能力者であってもどこの学校にでもいるような「不良」がいる。この不良は喧嘩をよくしていた。実力が伸び、周りが自分を慕う、この快感が堪らないのであろう。





この日の昼休み、ツバサはあまり人のいない屋上でテア、シドレ、アイ、ワールの生徒で昼食をとっていた。生徒に混じり、雑談をする最中にときどき時事的な話題も飛び、楽しく食事を行っていた。



「え!? ティアさん、イヨさんのこと知っていたんですか!?」

「え? ええ、知ってるわ。だって隣のクラスだし……」

「そんなー、ツバサさんの用で行かなくてもティアさん繋がりで行けたかもしれなかったんですねー……。あ、ツバサ先生でした」

「俺が教師だって忘れないでほしいね。というかシドレ、問題起こさないでよ? この学校喧嘩多くてその対処だけでも忙しいのに。血の気が盛んなのは別にいいんだけど迷惑をかけないでほしいよ。面倒だし」

「そういうこと言わないでくださいよ、ツバサ『先生』」

「はいはい」



ツバサが自分の昼食として売店で買ったパンを口に入れながらそっと青と紫の曖昧な色をした目を校舎裏の普段人気がない場所へ逸らした。






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イヨは昼食を食べ終わり、校内をフラフラと歩いていたのだった。正確には、なにか甘いものを口にしたくなって売店へ向かっていた。しかしそれは過去形の話。いまは用がないはずの校舎裏に来ていた。その理由は、いたって単純そのものだった。喧嘩を売られたのだ。血の気が盛んな一部の生徒は学校で少しでも名が知れた生徒がいると、こうして喧嘩を売るの。イヨは校舎裏に呼ばれた。初めは断ろうとも思っていたのだが、風紀委員長なのに風紀副委員長や風紀委員たちを困らせていたのは知っていた。道徳心があるからこそ、ここは相手を成敗して少しでも仕事をしようと思った。イヨ自身は好きで今の立場にいるわけではないのだが。



「お前が3Bのイヨだな。今日、俺はお前を倒す! 俺は3Dの――」



喧嘩の売り方がなんだかどこぞの武将のようでイヨは変なところで礼儀正しいな、と頭に相手の名前を残さないままぼんやりと考えていた。
ああ、甘いものが食べたかった、と考えていたらいつの間にか喧嘩は始まってしまった。相手はどうやら異能者で召喚師。まるで魔術師のような攻撃を一瞬で描いた陣のなかから繰り出し、イヨを襲う。なかから繰り出されたのは火の玉で、火属性の召喚師か、と授業で習った異能者についてを考えながらその攻撃を避けた。



「やっぱ避けるか」

「……喧嘩を売ってこの程度か」

「まだ本領発揮してねえよ!」



両手で小さな陣を同時にいくつも描くと、そこから先ほどよりも多い火の玉がイヨを襲う。イヨは避けながら「棘」を生やして相手がもう陣を描けないように両腕をきつく拘束した。これで勝負はつただろう、と思った矢先だ。先ほどとは打って変わった大きな陣が地面に出現。なぜだ、と相手の生徒を見れば、彼の髪に隠れていた首ものに赤く光る「線」を見つけた。あの線はもしや陣? とイヨは唾をのみこんだ。一部の召喚師は体に直接陣を刻み付けると授業でならったことを思い出した。
火の玉、という召喚のための契約相手の力だけを引き出す陣とはちがい、今度はその契約をしている獣を引き出すつもりか。



「はい、ストーップ」

「ぐえっ」

「君は生徒指導室へ直行だね。おめでとう。見てたよ、風紀委員長さん。お疲れ様」

「ツバサ先生……?」



なにが召喚されるのだろう、とイヨは陣を睨んでいたのだが、突然の乱入者に陣はかき消された。
誰だ、とその声をたどれば、新任教師のなかで生徒に有名な社会科担当のツバサだった。



「屋上から見えて急いできたんだよ」



この時、この新任教師とは、まだたいして話もしない先生であり、イヨはこの場限りでもうこの教師とは縁がないだろうな、と思っていた。


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