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▼ 百花繚乱:First meeting

頑張れ、と紲那に叩かれた肩をさすりながらツバサはとあるドアの前に立った。新任として、初めての授業。自己紹介を兼ねたオリエンテーションをするつもりであるため、世界地図や歴史の参考書などではなく教科書や出席簿を持参していた。
人の前に立つこと、人に教えることが苦手ではないツバサはたいした苦でもなければ緊張感すらなかった。ドアの前に立っている時間は短く、ここが予定の教室かプレートを見て確認をしてからガラッとドアを開けた。

三年生ということで一年生のような慣れない雰囲気やぎこちない会話とは違い、クラスメイトの互いに遠慮がない会話が飛び交い、教室は賑やかだった。異能者、能力者の学校ということもあってか、ペンや筆箱、教科書がときどきフワフワと宙を浮かび、揺れてもいないのにペットボトルの中の液体がぴちゃぴちゃと弾けていた。
ツバサ教卓に荷物を置くと待っていましたといわんばかりに制服を着崩した化粧をしている女子生徒が話し掛ける。どうやら新任の紹介をした全校集会のときからツバサに話し掛けようとしていたらしい。若く、さらに端正な男性教師に年頃の女子生徒は胸を踊らせていたのだ。



「せんせー、名前なんてゆーのー?」

「教師なのにメッシュしてていいの?」


「紲那せんせーもいいと思うんだけど頭が弱気よねぇ」



教卓のまえにわらわらと集まり、質問をする生徒にツバサは嫌な顔をすることなく一つ一つ答えていった。鐘が鳴っても教卓を離れない生徒にツバサは席に戻るよう指示を出したがしつこくもどらない生徒もいた。ツバサが再度指示を出そうとしたとき「席にもどらないとイヨさんが怒るよー」と別の場所から注意の声がした。
名前をあげられた本人は窓の外を見ながらスティック型のチョコが塗られたお菓子を食べており「ん?」と状況がわからないまま窓から教室に視線をかえた。



「わー、ごめんなさーい」

「? あ、ああ……」



なぜ謝られたのか理解していないイヨは「?」マークを頭上に撒き散らしながら授業を開始した。



「さっき一部にはいったけど俺はツバサといいます。これから一年間宜しく。社会科以外にも教えられるんだけど、取り合えず歴史を担当することになりました。異能や能力の関係で外見より長生きするタイプの子は、まあ、居るよね。教科書通りいくから歴史に関して文句は言わないように」



二、三人が教科書をパラパラとめくるのを確認しながらツバサは「個人的なことだけど」と教室を見渡す。



「俺は上下関係が嫌い。だから君たちのことは対等な人として扱うし、君たちも対等に接してほしいかな。まあ、だからって俺を嘗めて接してくるならそれなりの対処はするから。俺は異能者で治癒能力。いつか業火なんて子もいたけど、そんな攻撃的な異能じゃないんだけど嘗めるなら覚悟をして来てね」



口調こそは優しいものの、僅かながらの威圧感が文句を言おうとした生徒を黙らせていた。当人は口を閉じてしまう理由をはっきりと理解していなかったが、その中でイヨはツバサから目線をそらした。



「変な奴……」




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