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▼ By chance

緋里さまの「prompt」のツバサ視点です。





その日もツバサはいつも通り仕事をしたくないという理由から補佐の二人から逃げていた。いつもは組織の建物内で事を済ませるが、今回は外に足を踏み入れている。部下のシドレ、アイ、ワールが仕事で遠くまで行っているとある場所へ、様子見と言い張って訪れていた。
その街の地形はまるで迷路のように複雑。だがツバサは難なくそこの住民のように歩みを進めていた。時おり「懐かしい」と呟くあたり、一度その街で暮らしていたようだった。



「……にしても相変わらず治安が悪いというか……」



携帯端末機器で部下のアイと居場所のやり取りをしながら目的地に進んでいたツバサは近道である人気の少ない細い道を辿っていた。
2、3人くらいの人間とすれ違っていたが、終いには誰ともすれ違わなくなっていた。それでも構わずツバサは暗いそこへ進んでいった。

そしてそれは突然だった。

パン、パンと銃声が聞こえ始め、ツバサは足を一度止めた。それからすぐにアイへ連絡。



「ちょっと面白そうな音を耳にしたから、そっちに行くのは遅れるよ」

『遅れるって、どのくらいだ?』

「ちょっと寄り道するだけだからそんなに時間はかからないはずだよ」

『シドレとワールが待ってるから早く来いよ』

「わかってるって」

『……気を付けて』



アイはそれだけ言って通話を切ってしまった。ツバサは銃声のする方へ進む。
黒髪の男が部外者のツバサに発砲することがあったがツバサは涼しい顔で彼らを殺していってしまう。武器を持ち歩いてはいなかったが、ツバサにとって彼らを殺すことは容易かった。

彼らを殺していくなかでツバサはその正体について思い当たることがあった。人拐いの東洋人で構成された組織がいたな、と。何が原因なのかまでは調べないとわからないが、争っていることだけは子供でもわかる。誰と争っているんだろう、とツバサは薄汚い足元をまったく気にせず進んでいく。
とある部屋を通り抜けようとしたその途端、グチュと潰すような音がした。

それは複数で、煩く騒いでいた銃も嘘のように静まっていた。ここに人拐いの組織と争っていた敵がいるのか、とツバサが目を向けたらそのとき、暗転した。

全身の熱が冷め、ガクンと膝から力が抜けた。



(心臓を撃たれたか)



胸に銃弾が埋め込まれているのにツバサは暢気だった。
ツバサは不死であるため、とくに気にした様子を見せなかった。ツバサが床に倒れるときにはもう傷口は塞がっている。手をついて情けなく床と全身が接触するのを防ぐ。

自分を撃った人物が立ち去った足音を静かに確認するとツバサは起き上がった。何事もなかったかのように立ち上がり、謎の人物がいた部屋に入っていった。
そこには長く鋭い棘が部屋全体を支配するように広がっていた。その棘に突き刺さる人間はドブドブと血を流し続けている。

無意識に彼の口元は弧を描いていた。




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