ミックス | ナノ


▼ BAD END



 ※ SSS本編のパロディ。
   本来本編に関わりがないコラボ企画ですが、あえて本編に沿ったものです。故にパロディ。
   SSSのネタバレを含むため、第二部まで読むことを推奨します。




「……嫌な予感はしていたんだ……」



小さく呟いたイヨの言葉を拾ったのか否か、目の前に座っているリャクとナナリーは顔を合わせた。

イヨが異変を感じたのは今に始まったことではなかった。それは日にちをいくつか跨ぐほど遡る。



・・・・・・・・・・・・・・・



イヨはいつも通りツバサに会いに組織のアジトである建物にたどり着いた。連絡をしてから向かうわけではないため、それは日常に組み込まれた行動のうち一つだった。
ロビーにいけばそこにはシドレたち三人組とルイトがベンチに座って話をしていた。あの組み合わせは珍しいな、と思いながらイヨは彼らに近付いた。シドレとルイトの間に座っていたアイとワールはイヨの接近に気付いて挨拶をかわす。シドレとルイトもおなじことをした。



「ルイトはソラと居るイメージがあったから……珍しいな」

「……ああ、ソラな。いま不在なんだ」

「?仕事か?」

「ま、ぶっ」

「お前はダメだ。黙ってろ」



ルイトの口を、手袋をしたワールが抑えた。刀ではなく今日は剣を持っている。
ただ喋っているだけなのにダメ出しをくらったルイトの変わりにシドレが下心のない清楚な笑みで、透き通るソプラノの声でイヨの問いに答えた。



「こちらにも色々あるんです。強いて言うなら仕事中ですね」

「聞いてはいけないこと……だったか?」

「そんなことはありませんよ。言葉にするのが難しいというか……。イヨさん、今日はツバサさんも忙しいです」

「ツバサもか?」

「いま敵対してる組織のうち一つと山場なんです」

「こんなところだが俺たちも情報の売買をしてたところだしな」

「忙しいのか……。じゃあ今日は帰る。……悪かったな」

「いえいえ!」



シドレは急いで立ち上がるとイヨの手を握った。抱きつかれると警戒していたイヨは驚いた。実際、シドレは抱きつこうとしていたが思ったよりイヨは速く、滑らかな動きで回避したため手を握るだけで勘弁した。



「また来てください!」



いつも通り笑ったシドレの顔が離れなかった。
これがイヨの感じた最初の異変となった。


翌日はイヨも革命組織らしい仕事が入ってツバサのもとへ訪れることができなかった。

次にイヨが訪れて、出迎えたのはソラだった。格好はいつも通り男装をしている。服装はジャージで、タオルを首から下げている。両手にはミネラルウォーターがはいったペットボトルを持っていた。ソラにしては珍しく汗で黒い髪が濡れている。
あおいソラの眼がイヨを捉えた。変化があまりない表情のままソラは彼女に近付く。そして簡素に言った。



「ツバサなら居ないよ」

「またか……。仕事中か?」

「……。ていうか……いや、なんでもない。仕事っていえば、仕事だしね」

「どういう……?」

「イヨさん。今はルイトたちも忙しくて。後日また来てくれる?」

「わ、わかった」



異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変異変



恐怖に似た別の感情がイヨのなかを巡る。嫌な予感がした。あのときと非ではない胸騒ぎ。あのときっていつだ?そう、ツバサと最後に会ったとき。かれはなにをもっていた?つえ、だ。つえをにぎっていた。あしをいためていた。じゅうだんをうけてもへっちゃらなあいつが、あしをいためていた。ふしのはずなのに。すぐかいふくしてしまうのに。つえを、もっていたんだ。



そして予感は的中した。

次に訪れたときイヨを迎えたのはシドレとアイとワールではない。ルイトでもない。ソラでもない。
初対面の二人。白衣を着ている。時々廊下ですれ違う白衣を着た人とは違う。少年と少女。いや、少女のほうは東洋人だ。白衣の下に着ている服をみて極東の出身者だということがわかる。東の人は実際年齢より外見は幼く童顔だ。おそらく彼女は少女ではなく女性だろう。



「はじめまして。貴女がイヨさん?」



極東の出身者らしい漆黒の髪を軽く束ねる彼女はイヨに白い手を差し出した。



「私はナナリーと言います。この組織の研究部、ボス補佐です」

「補佐!?」



補佐はこの組織でもかなりの上層部。ボスの次に多大な権力を持っている。
優しく微笑むナナリーが差し出した手を呆然としながらイヨは握った。
どうして関わりのない研究部から、しかも上層部。



「はじめまして。……そちらは……?」



イヨはナナリーの後ろにいる少年を視界の中央に入れてみた。相変わらず威圧感が纏う少年だ。宝石を連想させるみどりの瞳も金色の髪も、すぐそこにあるのに手を伸ばせない気がする。
ボス補佐はほとんどの場合、その上司であるボスについて行動している。イヨはまさか、と思った。ツバサのような例外であるだろう、と思いたかった。しかし少年の雰囲気はそれに相応しいものがある。



「察しているだろうに……。オレはリャクだ」

「ここのボスです。……イヨさん、お話があるんですが。よろしいですか?」

「あ、ああ……」



ツバサやシドレの話で度々登場していたリャクとナナリーが目の前にいる。ツバサの補佐が出てくるならまだしも、なぜ。



・・・・・・・・・・・・・・・



そして時は戻る。

リャクはツバサが自殺したところの目撃者として状況を話したのだ。



「これからどうするかはお前に任せる。廊下に重力操作たちを待たせてあるから用があれば奴らに言え」



リャクは簡潔に言うと早々に応接間から出ていこうとした。



「あなたは、ツバサに対してどう思って……」

「想像に任せる」



リャクは相変わらず何を思っているのかいわないまま、やはり上に立つ者らしく感情を悟られないまま暗い廊下へ消えていった。もう二度と会わないだろう雰囲気を漂わせながら。
リャクのあとについていくナナリーはイヨに何も言わず頭を下げてゆっくりドアを閉めた。

広い応接間にイヨが一人だけ残った。

差し出された紅茶は冷たい。





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