▼ Merry Christmas
「はぁーっ、クリスマスですね!」
「お前、それ仕事じゃねえだろ。パソコンから離れろ」
「そうだぞ、シドレ」
複数ある自前ノートパソコンのうち白いそれを諜報部の休憩室で開いたシドレ。シドレがいるその正面に座って読書をするアイ。休憩室にいてまで抜刀の訓練をするワール。
いくら今日がクリスマスであっても、彼らの3人はいつもと同じ日常を送っていた。
「なんですかっ!いいじゃないですか!」
「いや、別に責めてねえから。落ち着けよ」
「リア充になれっていうんですか!?」
「だから……」
「ではワール。私にキスしてみてくださいよ!」
「耐性ねぇやつが何言ってんだよ!落ち着けよ!!馬鹿か!!つかそもそも俺ら従兄弟だろ!」
「それが何なんですか!法律では結婚できますよ!」
「上等だくそ姉貴!やってやるよ!覚悟しろ!」
「お前ら落ち着け」
シドレとワールが半ば叫び合うところでアイが冷静につっこんだ。
「シ、シドレ!」
うるさい休憩室のドアが開いた。
ワールがシドレに手を伸ばす最中。アイが次のページを開こうとしているとき。そこからイヨが現れた。それによりシドレとワールが冷静になって咳払いをした。
「どうしたんですか?」
いつもの優しい笑顔をしてシドレは首を傾げた。イヨは時計を指しながら言う。
「仕事が終わってなんとか急いで来たが、どうしよう。クリスマスがもう終わってしまう!ツバサにやるプレゼントも買っていない。華蓮に言われて取り合えず来てみたが何をすれば……っ」
「そもそもここ、いくらイヨさんでも立ち入り禁止じゃあ……」
「さっきミントに」
「あいつ寝惚けてたのか。ツバサの言う通りミントには重要な諜報の仕事はさせられないな。危なっかしい」
「それよりどうしたら」
「イヨさん!今日ツバサさんは早寝をしています。なぜなら連日徹夜してまでしていた仕事が昼間に早く終わったんです。そして昼間からつい先ほどまで偶然遭遇したリャク様と喧嘩をしていました。腐腐腐っ。おかげで六階がめちゃくちゃですが。今や疲れて寝ています」
「そうなのか……。なら帰るか」
「いえ、これはチャンスです!夜這いをするんですよ!ツバサさんが就寝されている部屋には補佐しか開閉を自由にできませんが私が例の手を使って開けておきます。ですから夜這いです!もししないと言うのなら、私たちが今、ここで、イヨさんとクリスマス最後の時間を過ごします!リア充ざまあ!私もリア充!万歳っ!」
「よっ、夜這い!?」
イヨは驚き、それでもツバサに迷惑はかけられないと思っていたがシドレがあらゆる手を尽くした。その結果、今やイヨはツバサ寝るベッドの前に立っていた。イヨが冷静になったのはつい先ほど。後悔してももう後には戻れない。クリスマスはもうすぐで終わる。
(……狸寝入りをしている様子はない。私がこれだけ近付いても起きないということはだいぶ疲れてるんじゃないのか……)
ツバサは彼の事情により疲れたりはしないのだが、それを知らないイヨは彼を心配した。
寝顔を見られることをあまり好まない彼らしく布団は頭のてっぺんまで掛かっていた。
「……でも、来て良かった」
イヨはツバサの雰囲気が好きだった。だから今ここにいるだけでイヨに自然と笑みがこぼれる。
「イヨ」
急に彼のそんな声がしてイヨは驚いた。さらに驚愕がイヨを襲う。布団が舞い上がったところが認識されると刹那、身体に優しい衝撃が伝わって、暖かくなる。
「……起きてたのか?」
「違う。今起きた」
ベッドに引きずり込まれたイヨはそう呟いた。
まだシャンプーの香りがするツバサの声が少し低い。覚醒しきっていない様子がする。まだ眠い様が窺えた。
「すまない、起こした……、!」
イヨを強く抱き締めたツバサは彼女の髪にキスを落とし何事か呟いて、そのまま眠りについてしまった。
「メリークリスマス」
イヨは聞こえていないだろう彼に言ってみた。
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ツバサが何を言ったのかはご想像にお任せ