▼ Pokky
「……なんだよ、これ。色気ねえな」
「今日のオレに色気を求めるのが間違い」
11月11日。
つまり細い棒状のお菓子の日。どうみても製造会社が儲かるための策略だ。
ソラの部屋に訪れた鈴芽――もとい鈴見はソラの部屋に入った瞬間呆気にとられた。
ソラの部屋にある小さなテーブルの上には山のように積み上げられた棒状のお菓子として有名なお菓子の箱が積み上げられていた。ぱっと見、一メートル以上はある。
「これ、まさか一人で食うんじゃねえよな?」
「別に一人でもいいんだけどさ」
まっすぐ、ソラのあおい目が貫くのは鈴見の双眼。
「なあ、普通に食べるのか?なんなら――」
「両端を互いにくわえて食べるってのはオレ受け付けないから。むり。普通に食べましょう」
「ソラー、お菓子ひとつわけて」
シャトナの声がドアの空く音と共に乱入し、鈴見の視界にシャトナが割り込む。鈴見は軽く苛立ちを覚えた。
ソラとシャトナが少しだけ会話をするとソラは山のようなお菓子をひとつ取ると彼女に渡す。シャトナが入ってきた玄関からレオの「さっさと戻れよ」という声がし、シャトナは何事もなかったように立ち去ろうとしたが、ふいに鈴見と目を合わせた。シャトナは鈴見の存在を知らないため、彼女は鈴芽と目を合わせているつもりになる。
「私はまだ貴方を認めてないわ!ソラは渡さないから!」
ビシッと鈴見を指して、揺れる影を引き連れて部屋を出ていった。
鈴見はあくびをしてから「なんなんだよ」とシャトナが消えた方を睨んだ。
「鈴見食べないんならオレが全部食べるよ」
「どうせならやっぱこうだろ」
ソラがいつの間にか空にした箱を潰していると視界に影がさし、やけに鈴見の声が近い、まさか、と思考を働かせたところで鈴見がお菓子をソラの口にいれると端を自分でくわえた。ソラが入れられた早々にお菓子を折ろうとしたがガッチリ鈴見に抑えられている。
だんだんと顔が近づき、ソラは焦った。
キスが嫌いなわけではないのだが、口に砕けたお菓子がある状態でキスをするのが嫌だった。
「んん゙っ」
ソラの抵抗もさすがに鈴見には敵わない。
もっとファンタジーな異能だったらよかったのに、とソラが悔しく鈴見を睨んでも鈴見には効かない。
そうやって抵抗といえる抵抗もできないまま唇が合わさった。口の中のお菓子を急いで飲み込んだソラは最後の抵抗として鈴見の唇をかんだ。
「っい!?」
「ふっ、ざけんな……!話は最後まで聞けよ」
思いもしない唐突な痛感に驚いて鈴見は口を離す。ソラは流れるような滑らかで素早い動きで肘を彼の鳩尾に食い込ませた。
彼は右手を床につき、左手で鳩尾を抑えた。しばらく――といってもほんの一分ほど――経っても彼はその状態のまま。鈴見の反撃を予想していたソラは直感する。
攻撃の直前に鈴芽と入れ替わって鈴見は回避したな、と。
「仕返し、鈴見」
気付かないフリをして鈴芽の顔をこちらに向かせるとソラは鈴芽の唇を奪った。無理矢理、深く、荒く。唇を離すと鈴芽は顔を真っ赤にさせてソラを見た。
「っな、に」
「あれ?鈴芽?気が付かなかった。つい鈴見だと思って仕返しを」
無表情であるが鈴芽はコイツわかってやったな、と目の前の確信犯をみる。ソラは積まれたお菓子の山からひとつ箱をとると鈴芽に弧を描いて投げた。鈴芽がそれを受けとるとソラは「食べよ」と言って自分の箱をとった。
お菓子の山に動揺することなく鈴芽もお菓子を食べた。