ミックス | ナノ


▼ 開幕の音色


例えばの話だ。

例えばハンバーグの肉が人間の肉――、そう。人肉だったとしよう。君は何も知らないでそれを食べる。その肉は美味しい。あとからそのハンバーグの正体を知る。君は胸糞が悪くなる。
例えば飼っている犬――他の動物でもいいが――は愛らしいペットのフリをして密かに君の首を狙っているとしよう。君はスキだらけだからすぐに殺されてしまうね。
例えばいつも楽しそうに君の隣をあるく友達は君を憎んでいるとしよう。理由はどうでもいい。友達は誰にもバレないポーカーフェイスで見事に君から好かれている。友達はいつ君の心を踏みにじって裏切ってしまうんだろうね。



「ねえ、見てあの空!夕陽が雲に射して綺麗」



俺と同い年の男とは思えないほど純粋で無垢な彼は空を見上げている。俺は空が大嫌いなのに。濁った色が穢いじゃないか。
彼は空をガラス玉のような透き通る瞳に焼き付けたあと、俺に笑いかけた。

君は人を疑うことを知らないんだろう?

俺が君をまもってあげる。
綺麗な、なにも知らない君の分まで俺は汚れてあげる。君の分まで世界を憎んで、恨むから、嫌うから。君は変わらないその心ですべてを見つめていて。幸せになって。
何もかもを失ってひねくれた性格の俺はもう世界を好きになれないから。せめて君だけは――。






(君は知らないだろう。ぼくの寿命が残り僅かしかないことを――)

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