▼ Attache case
緋里さんの『risk』の続き。今回も勝手に。まあ、いつものことですね。
ワール視点
前回のあらすじ。
日暗さんが女性になっていた。そしてなぜか捕まった。以上。
「っち、離せ!」
監視カメラ越しにいる誰かさんに笑われてる気がする。つか絶対笑ってる。後でからかわれる。
つか男に抱きつかれても嬉しくない。今の身体は女だけど。
性転換して男から女になった日暗さんに殺気を送れば彼(いや彼女?)はすぐ腕を放した。ビビったわけではないだろう。隊長、なんていう立場にいる奴が俺みたいな餓鬼にビビるはずがない。経験も違う。理由はともかく日暗さんはすぐ離してくれて、俺はすぐにシドレを睨んだ。
「シドレの影響か?」
「一丸に否定はできませんが……。でも全部が全部、私のせいではありませんからね!?信じてワール!」
「いや、うん、まあ、信じてはいるけど……、でもお前の影響だろ。アイに見つかったらどうすんだ?俺まで……。……うわぁ」
アイの「お仕置き」は恐ろしい。
変なことをつい考えてしまい、俺は首を振ってそれをどこかへ飛ばす。目の前にいる日暗さんは顎にその無駄に綺麗な指を添えて考え事をしていた。
「シドレちゃんってワールくんと話してるとたまに敬語はずすよな」「あの、忘れ物ですよー!」
相変わらず、その変態に反して観察力のある日暗さんだ。日暗さんがフリーで、そういう仕事がなかったらツバサがいい待遇で契約を持ちかけていたかもしれない。いや、実際は知らないけど。
日暗さんの言葉を遮ったのは明るい女の声。その発生源を辿っていくと、そこには仕事仲間のミントがいた。
アタッシュケースを持っているミントはそのまま日暗さんのすぐそばまで行くとアタッシュケースをつき出した。
「シドレさんから連絡してもらったので持ってきたんです!」
にっこりと笑うミントに日暗さんは首を小さく傾げていた。ミントは笑うと、じーと徐に日暗さんを見ていた。きっと心中では「とても美人な人だけど見たことある気がするなー」だろう。分かりやすい。
「えっと、シドレちゃんいつのまに?」
「師匠と話をしながら彼女に連絡をとりました」
へえ、日暗さんでも気づかないことがあるんだ。まあ、シドレはこういうの得意だし、どっかの上司に死ぬほど訓練させられてきたし。つかそもそもシドレの場合は手を使わないからな。俺も気づかない。
「やー、それにしても可愛いね」
日暗さんの目がミントへ向いた。なんか、その、標的を見つけたような……。相変わらずニコニコしているミントはその視線に気づいているのか否か。こういうことに関してはミントも心中が読めない。
「いえいえー、貴女の方が素敵ですよ?スタイルもいいですし、美人さんですしね!べっぴん!」
ミントはシドレとは少し違う敬語で日暗さんを上から下まで何度も見てため息を吐いた。次にシドレを見て、俺を見て、またため息。なんなんだよ。
「私、胸おっきくなりたいです。せめてシドレさんくらいまで!ねー」
「なんで俺に同意を求めるんだよ」
「私の話をいつも聞いてくれるのはワールさ、むぐっ」
ミントが頬を膨らましていると、その顔が見えなくなった。正確に言えば日暗さんのでかい胸に埋まって見えなくなった。
綺麗な顔で微笑む日暗さんはなんだか楽しそう。
いち早く状況をのみこんだシドレは「百合!百合!」と鼻血を流していて、俺はそんな従姉にポケットティッシュを渡しておく。今日の一階掃除当番が可哀想だから床に血が落ちないうちに。
「やわひゃかーい!!」
一番最後に状況を把握したミントは、それが日暗さんの胸だとわかると、彼女(でいいのか?)の背中に腕をまわし、その顔面で巨乳を思いっきり堪能していた。
「おいミント、客人に……」
「いいっていいって!」
ははは、と笑う日暗さん。寛大なのか、下心ゆえなのか。
後者だろうな。堂々とミントの腰に手をまわし、そして――消えた。ミントが。パッと。
「胸ありがとうございます!」
テレポートだ。シドレの横に普通に立っている。多少なりともミント側に重心をおいていた日暗さんはバランスを崩し、フラリと倒れそうになった。日暗さんのことだから倒れる心配はないが、なんというか、条件反射で日暗さんの腕をつかんで傾いたところを転ばぬように支えた。
「……ありがとな、ワールくん」
「いや、別にいいけど」
今、顔が歪んでなかったか?痛そうに。
「!?」
「って、あ!師匠!?」
「ふぇえ!?お客さん!?」
ふらっとまるで力が抜けたように、日暗さんは脱力してしまった。
腕をつかんだままだった俺は脱力した日暗さんの腕を引いて俺の腕に日暗さんの背中を預けさせてみた。
「……師匠?」
「寝てます?」
「寝……?いえ、これは睡眠という言葉はふさわしくありません。……、ただ……」
「とにかく来客用の医務室に運ぶぞ」
俺が日暗さんを横抱きにして持ち上げるとミントが「私がテレポートで連れていきましょうか?」と声をかけたが俺は断った。重くないし、医務室は一階だからすぐそこだ。
ただ問題があるとするなら、日暗さんが男だってことだけ。いや、今は女の格好なんだけど、こう、な?シドレが何か言いそ……言ってた。
「師匠とワール……、新境地!ふふふ、師匠はフラグマスターですね。ふふふ腐腐腐腐腐」
「……」
「アタッシュケースは私が持って行きますねー」
シドレを無視して俺とミントは駆けた。シドレは後からついてくるけど、気にもならない内容をブツブツと呟いていた。
________来客用医務室
「っなんで誰も居ないんだよ!!」
「演出ですね、分かります!師匠とワールがにゃんにゃんするための!」
「猫?」
医務室には誰も居なかった。
日暗さんをベッドに寝かせ、ミントが来客用の医務室を担当している奴を呼びに行こうと跳ぼうとしたときにドアが開いた。
「ちょっとの暇潰しさせて」
俺たちの上司――ツバサだ。俺らが突如の登場にポカンとしている間にツバサは日暗さんが寝ているベッドに近付くと、ベッドの周りを囲むカーテンを閉めてしまった。
「まさか浮気!?」
修羅場ですー!と騒ぐミントの口を抑えて、取り合えず待った。シドレは大人しくしていたが、顔が崩壊している。頭の中は忙しいんだろう。趣味の否定はしないけど……。
「くくくくっ」
喉をならしながらツバサがすぐにカーテンから口を抑えながら出てきて、俺の肩に空いている片手をのせた。
「起きてるよ」
それだけ言って「じゃあまた逃げようかな」と言って去って行った。一帯なんだったんだ、と。タイミングが妙によかったな、と思った。数秒後に「待て詐欺師!」と別の上司がツバサを追いかけて廊下を通って行った。大変だな、上層部も。
━━━………‥‥‥・・・・
長くなったので微妙なところで……