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▼ 馬鹿な国民と占い師

私は占い師。

私は国を回る旅人だった占い師。

この村で唯一の占い師。

世界で一番天才な占い師。

占いを信じない占い師。

人を操る占い師。

国民が大嫌いな占い師。

国民を殺したい占い師。

けどひ弱な占い師。

死にたい占い師。

自由になりたい占い師。

私は、人を操る占い師……。



























まだ物心がついたばかりの俺は、儀式に参加できる許可を握った。両親に連れてこられたのは国で一番大きく、豪華な屋敷。昼夜問わず、その屋敷の玄関はいつも人が並んでいた。ずらりと長い大蛇のような列。その最後尾に俺とその両親が加わる。彼らは――俺たちは何をしに来たのか?これを知らない国民はいないが、知らない外国人はいるだろう。だから俺はその質問に答える。
俺たちは未来を占ってもらいに来たのだ。
ここには天才的な占い師が住んでいる。占い師である彼女の言ったことは百発百中。外したことはない。未来を知りたい俺たちは、子供の幸せを願う親たちは、ここへ訪れる。物心がついたばかりの子を連れてくるのは、この国民にとっていつしか儀式のようなものになってしまった。だから儀式と呼ぶ。
「次の方ー、前へどうぞ」「あら、もう順番が回ってきたわ!」「行こうか、〇〇」「うん」
何時間か経って、ようやく俺の番が回ってきた。子供にとって、待つ、というのは耐え難い苦痛であったが、当時の俺はそんなことを微塵も感じていなかった。なぜか、と言われれば恐らく「わくわくしていたから」と答える。
赤い絨毯に敷かれた冷たく長い廊下の奥に、鉄でできた重そうな扉があった。この奥に占い師がいる。ここから先は占って貰える俺だけが通れる。俺は高鳴る心臓の上に手を当てて、ゆっくり深呼吸した。緊張しているせいか、興奮しているせいか、もしくは両方、または別の何かのせいか、わからなかったが俺の心臓はとにかく暴れていた。
鉄独特の擦れる大きな音がして扉が開く。俺一人が中に通される。よくわからないまま俺はゆっくりとした足取りで中に入り、キョロキョロとなにかの動物みたいに首を捻らせて辺りを見ていた。素人の、子供にもわかるほどその部屋には高級感が満ち溢れていた。当時の俺に、それを例える言葉はない。強いていうならば、テレビでみたホテルのスイートルームのような。お姫様の一室のような。庶民の俺がその部屋で息をすることでさえ罪悪感を感じてしまうほどだった。
その部屋の中央に、ソファがあった。真っ黒なソファだ。そのソファに座っているのは、真っ黒なローブに身を包んだ人。きっとあれが占い師だ。そう直感したとき、占い師は扉の前に立ったままの俺に一言、呟くような声で言った。
「貴方は将来、この国の国民をすべての滅ぼす殺人鬼となるでしょう」












































































































俺は大人になった。

どうせ殺人鬼になるんだから、と、俺は占い師の屋敷から出たあと、人を殺す術を学んだ。裏の世界へ足を踏み入れ、とことん汚れた。
占い師は絶対だ。
と、まあそんな回想はどうでもいい。それより今だ。俺はあの屋敷へ戻ってきた。真っ赤だった服はもう乾いて茶色から黒へ変貌している。俺は占い通り我が国一番の殺人鬼になった。国を滅ぼすなんて、簡単だった。なぜならここ数年、殺人鬼が大量に出没して国民が少なくなっていたからだった。
そして俺は最後の国民である占い師を殺しにここまでやってきた。子供の頃の記憶を呼び覚ましながら、赤い絨毯に敷かれた冷たく長い廊下の奥の部屋に向かう。着いた。開ける。そこに少女が一人。わかる。占い師だ。ローブは着ていないが、真っ黒なソファに座っている彼女は記憶のまま。

扉を開けたばかりの俺に、彼女は笑う。



「お久し振りです。占い通り殺人鬼になってくれたのですね。ありがとうございます」

「ああ。んで、最後の国民であるお前を殺しに来たぜ」

「おつかれさまです。……私は屋敷という牢屋から出たかった。国民に縛られてここで占いをすることが嫌だった。貴方が私を開放してくれるのですね。1059番目の殺人鬼さん」

「は?」

「さあ、39番目の騎士さん、私を守って!この殺人鬼を殺して!彼こそが最後の国民!」



意味がわからないまま、硬直していると後ろから現れた美女に俺は刺された。真っ赤な絨毯は鮮血に染まる。



鹿




「ご協力ありがとうございます。いままでの殺人鬼はどうも使い物にならなくて。これで退屈な日常も終わりね!」






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