ミックス | ナノ


▼ Wish

緋里さんのスペシャルチケットの続き。例の如く、また勝手です。
















「俺が願い事をひとつ叶えてあげるって言ったらなに願う?」

「貴様が仕事をするように」

「雑用を俺にまわすな」



ツバサが自分の書斎にある分厚い本を片手に、背後にいる二人の補佐へ聞いてみる。前置きもない唐突な質問でありながらも即答できる二人は普段からツバサにしてほしいことを考えているのであろう。



「聞いた俺が悪かった」

「なんだ、叶えてくれないのか」



ツバサの目が再び本の中で整列する文字たちをなぞり始めた。書類を整理していたリカは明らかなため息を吐いて再び作業に戻る。



「私だったらイヨさんとイチャイチャしたいです!それか、イヨさん(男体化)と師匠の妄想を……ぐへへ。ツバサさんがイヨさんを使うの駄目とおっしゃるならツバサsann
とリャク様の……!」

「俺だったら刀買ってもらいたいな。刀は壊れやすいし。鍛えなおすんならそれでもいいんだけど」

「シドレ、口から唾液がでてる」

「は、はしたない!」



アイのハンカチで急いで口を拭くシドレ。ワールはシドレを見ながら「やっぱシドレが暴走しないようにどうにかしてほしい、にしたほうがいい気がするな……」と呟いた。

ツバサは文字に向けられていた目を離し、バタンと音をたてて本をとじた。ツバサの顔がうかがえなく、無言のままの彼をシドレは突然発言したことに怒ったのかと背筋を凍らせた。土下座する体制に入ろうとしたシドレに降ってきたのは「やっぱりそうだよね」という呆れたような疲れたような、安心したような、混ざりに混ざって別の意味をもったようなため息だった。



「テアだったらどうする?」



部屋の隅で大人しくしていた一人の少女にツバサは問い掛けた。ツバサと同じく読書していたテアは突然話し掛けられて驚いたのか肩が跳ねる。そんなところが可愛いなあとほのぼのした感情を抱きながら「俺に叶えて欲しい事がある?」と微笑みかけた。テアは本から顔をあげ、眉を少し潜めて考える。



「……。……わからない……。今で幸せなのよ、私。だからすぐには思い付かないな。強いて言うなら、ずっと幸せでありたいなっていうのくらいで」

「ティアさんにとっての幸せはツバサさんの存在ですからねー」



シドレがテアのところへ行こうとするのをワールが抑える。































「ってわけでケーキ作ってー」

「どういうわけだ。それに、お前は甘いもの苦手だろう」



ツバサが願い事を聞いていた翌日、同じ書斎でツバサがイヨに一枚の紙を渡しながら笑った。
その紙は先日イヨがツバサに渡したものだった。なんでも一回だけ願い事を叶えてやる、と。そんな権利がある大切な紙だ。その紙はイヨが渡した時と変わらず、ツバサが大切に保管していたことをうかがわせた。

イヨはツバサの願いに二重の意味で驚いていた。
ツバサならもっとイヨが嫌がるようなことを指名してくるのだと思っていたのだ。
そして二つ目はツバサの願いがケーキを作ること、だった。もちろんイヨが。ツバサは甘いものが苦手のはず。イヨの頭上には「?」が並んでいた。



「たまには食べてみたいものだよ。別に食べられないわけじゃないんだしさ」

「……そういうものか?」

「そういうもんだよ」



種類は任せるねー、とツバサは笑って共有のキッチンへイヨを連れていった。




━━━━━………‥‥・・・

オチなんかないよ!
いつもと一緒だね!




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