「な、なんでこんなところに……、明が……?」


真っ黒な部屋の中で浮かび上がるのは明の姿。彼女は私のところに寄り添って来た。寝転がっている私の隣に座り込んでどうしたらいいのかとオロオロとしていた。


「私も葵ちゃんがいることを不思議に思ってるんだよ。えっと、ごめん、私は治癒の異能がなくて……」

「それは、いいんだけど……。明は私の夢の中で作られた虚像じゃなくて、まさか、本物?」

「えっ、これ、夢なの!? た、たしかに寝たような気がするけど」


この明はなんだか夢の中の虚像ではなく、現実味に溢れている。私の虚像で作られた明ではないような気がするのだ。
私の夢に現れた明そのもののような。そんな気が。
私の直感はトリップしてから冴えるようになった。この感覚は、まさに的中するときの感覚と似ている。しかし、なぜ私の夢の中に明が? そんなことが可能なのだろうか。


「じゃあ今、私と葵は夢を共有してるってこと?」


自分の上着を脱いで私の傷口に巻いてくれる明。
たしかにそんな気がする。こんなの初めてだ。


「こんなこと……、あるんだ」

「私も驚きだよ。っ!?」


明は突如左側の首元を抑えた。眉をひそめて痛そうにうめき声をあげる。どうしたのだろうかと私が上体を起こそうとして、明がとっさに抑えた手を離す。そこには智雅くんの手の甲にあったものと同じ目がギョロリと見開いていた。明の首にあるその目が見開いたまま私の方を見ている。その眼光があまりに奇妙で私は呼吸が一瞬とまってしまった。


「あ、ごめん。気味悪いよね」


明は左側に流しているサイドテールで目を隠す。「そんなことないよ」を私が首を振ると、明は困ったような表情をして顔をすくめた。


「これ、鏡面世界にいるときに開くものなの。葵といたときは隠してたんだけどね」

「ここは夢の中だよね? なんで目が開いているんだろう」

「私もわからない……」


言葉が続かず、このまま黙ってしまう。しん、と静まった中で唐突に見知らぬ女性の声がそっと響き渡った。
「あかり」「あかり」「あかり」と明の名を呟いているようだった。けっして明を呼んでいるわけではない。むしろ突き放すように冷たく、怖がるようにどこか震えていた。
私は明を見上げる。彼女は普段の明るい明からは想像できないくらい険しい表情をしていた。その鋭い眼光だけで人を殺せそうなくらいである。明の様子はまるでおかしかった。怒りに肩を震わせているように見える。しだいに声はあかるさまに声を荒げていった。


「明……、あぁ、なんて恐ろしい子なの。なんて恐ろしい人間を産んでしまったの。あんなの人間じゃないわ。いいえ、私はあんなものを産んでなどいない。あんなの私の子じゃない。おそろしい、バケモノ。私の視界に入らないで。私を見ないで。私を同じ空間にいないで。はやくどこかに消えてしまえばいい」


呪うように紡がれる言葉に、明の表情は無表情になっていく。首筋の目玉はギュルリギュルリ動き回っていた。なにかを探しているかのように忙しなく動いている。


「明……? この声、知ってるの?」

「これ、私のお母さんだよ。……なんでこんな声が。夢だから私の記憶が聞こえてるのかな」


明のお母さん? 明の記憶?
お母さんがこんなことを娘に言ったのか? こんなにも冷たく、怖がるように、恐れるように。わが子へ。


「葵ちゃん、動かないでね。私が葵ちゃんを守るから」


明は立ち上がって大鎌を構えた。いつの間にかその手に得物が握られている。明は私に背を向けて、まっすぐ先へ殺気を放っていた。私は明と同じところをみる。そこにはもう一人の私が奇妙に笑いながら立っていたのだ。