気が付いたら智雅くんと明が私の顔を覗き込んでいた。


「ああ、良かった!」

「葵! 目を覚ましたんだね!」


……へ?
え、なにごと? なんで私は知らない質素な部屋のベッドで寝ているのだろうか、智雅くんと明が安心した表情を見せるのは何故なのだろうか。


「二日も高熱でうなされてたから安心したよ」

「……」


んん? 私が、高熱? うなされてた? ひっかかる点が二つある智雅くんの発言だ。
まず、なんで私が高熱なのか。別に風邪はひいていないし、ひくような節もない。二つ目は二日もうなされていたことだ。智雅くんの異能は怪我の治癒に留まらず、病気の治療も可能だ。そんなに心配してくれているのなら異能を使ってくれても良かったのに。智雅くんにかぎってうっかり忘れていた、なんてことはないだろう。心配してくれたのにわがままなんて言えないんだけれども。

そもそも私はどうしてここにいるのだ。私の最後の記憶は山田さんが大蛇に何かして、大蛇が苦しそうにのたうち回っている様だ。結局、かよさんが洪水をどうしたのかもわからないし。


「明、智雅。葵を置いていって話を進めようとすんなって」


智雅くんと明の後ろから光也が声を投げ掛けた。その隣には瑞季がいる。この場にいないのは山田さんとかよさんだけか……。


「葵、山田さんが大蛇をなんかして消したあとに倒れたんだよ。すっげー熱が出ててさ」

「まー、光也にーちゃんも大変だったけど、すぐになんとかしたよ。でも葵ちゃんはただの熱とは違ってて俺はなにもしてないんだ。ごめんね」


光也と智雅くんが話してくれている間、明はせっせと私の体温を測ってくれていた。


「私が思うに、葵ちゃんの高熱は風邪とかじゃなくて、急激なエネルギー消費が原因だと思うの。ほら、機械とかって使いすぎると熱くなるじゃない? あれとおなじ現象かなって」


瑞季がそういう。
エネルギー消費……。ってことは山田さんの封印が関係しているのかな。山田さんの封印が成功したとしたとして、首一本があの山田さんという器の死体に追加されたから、封印していることになっている私に影響が出た……と。

ベッドのすぐ脇にいる智雅くんがうんうんと頷いている。読心能力を使ってるな……、こりゃ。智雅くんは適応能力と不老不死の異能しか使わないって決めてるんじゃないの。まったく。


「葵、お腹すいてない? おかゆ作ってくるよ」


明が私の頭を撫でながら首を傾げる。なんだか妙に懐かしい気持ちになった。なんだろう。何故なのだろう。


「うん、お願い。ありがとう」

「ぜんぜんいいよ。気にしないで!」


明はパタパタと部屋から出ていく。明が出ていってから、すぐに智雅くんが私の額に手を当てた。安心したように息を吐いたことから、私はもう大丈夫なんだと確認する。


「山田も無茶しすぎなんだよ。葵ちゃんがこうなるって分かってたはずなのに」

「でもあの首を封印できたんならいいんじゃない?」

「たしかに出来たけど、こんなことをあと六回も繰り返してたら葵ちゃんが消えちゃうよ」

「消える……?」

「取り合えずまだこの世界にはいられそうだし、俺はちょっと『アルモニア』に連絡とってみるよ。葵ちゃんが心配だわ俺。上層部に俺と知り合いの若い子がいるからね。まーでも望み薄だけどね」


「智雅の言う『若い子』って、じーさんも加わってるから意味わからん」と、おそらく智雅くんの不老不死を知っていながら光也が首を横にふった。


「じゃあ俺、ちょっと連絡取るから光也にーちゃんの携帯貸して」

「俺?」

「明ねーちゃんや瑞季より光也にーちゃんの番号の方が出てくれると思って!」

「あ、お前っ」


智雅くんは光也にダイブして押し倒すと、彼のポケットに遠慮なく手を突っ込んだ。光也が智雅くんを剥がそうとしてもなかなか剥がすことができないようだった。まあ、智雅くんだからね。
光也から強奪した携帯電話を手に、智雅くんは部屋から出ていった。残された光也はボロボロになっており、「あんのクソガキ……!」と歯軋りしていた。瑞季が困ったように苦笑いをしている。