「あっれ。やっぱり葵ちゃん、かよが見えるんだ」

「まじか! すげーな。俺には何にも見えないのに」


智雅くんと光也が口々にそう言う。頭にのし掛かる山田さんの重みに眉を寄せながら、私はかよさんと目を合わせる。かよさんは苦笑いをした。そういえば足の方が透けている。やはり幽霊なのだろうか。というか、幽霊って本当に足が透けてるんだ。


「智雅くんも光也も、かよさんが見えないの?」

「見える方が珍しいっていうより、かよが珍しいって感じだよね。俺と光也にーちゃんも、瑞季も見えないよ」


すとんと肩を落として智雅くんは首を振った。そうなんだ。かよさんのほうは『話せる人が増えて嬉しいな』と言ってくれている。


「おい。雑談はもういいだろ」


山田さんがやっと私の頭から退く。背が低くなったらどうすんの! 山田さんは死体でも大きいから羨ましい。まあ智雅くんに比べれば私の方が大きいか。
山田さんの言葉に、明ははっとしたようで、かよさんに大蛇の居場所を聞いた。


「かよちゃん、大蛇はどこ?」

「このまま学校へ向かって。そこにいるはずだから」


明にそれを言うと、かよさんは見えなくなった。明と光也は私たちを学校に案内する、とこちらの歩くペースに合わせてくれた。学校へ行くまで、私と明はしきりに智雅くんを気にすることになる。鏡面世界に来てからというもの、智雅くんは周囲を気にするのだ。異様に警戒している。何に警戒しているのかはわからない。ただ、智雅くんの凄まじく鋭い視線があちらこちらを見て落ち着くことはなかった。


「智雅くん、大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」


話しかけるといつも通りに返してくれるのだが、智雅くんの抑え込んだ殺気には気付いている。タバコを吸い始めた山田さんも智雅くんの不自然には気が付いているのか、「気にするな」と 私と智雅くんへ二重の助言をした。
首から下げている大きな数珠のような首飾りを気にしながら山田さんは学校へ向かう明と光也の後ろにつく。

ヤマタノオロチの封印は、私がしていることになっているが、あの首飾りにも意味はある。あれはヤマタノオロチを死体に閉じ込めておく、いわば金庫の扉のドアノブらしい。金庫そのものは私であるのだが、あげる手段はあの首飾り。よっぽどのことがないかぎり壊れないと智雅くんは言っていたが、ヤマタノオロチほどの神を相手にどれだけあの首飾りが耐えられるのだろうか。


「着いたよ」

「あ、本当だ。ありがとう」


考え事をしていたらいつの間にか目的地に到着していたらしい。
目の前には薄汚れた白と、ところどころレンガで装飾された学校。どこにでもあるような細長い校舎であった。ところどころ植えられた観葉植物と長年使っているせいで汚れた壁、雨にうたれた跡がある誰かの銅像。

なんだか学校そのものが懐かしい。


「こっちだ」


空間に魔方陣のようなものを浮かせながら光也はグラウンドの方を指差す。グラウンドには大蛇がいた。
ただなにもせず、こちらを――山田さんを見ている。