トリップ体質? だっけ? 泊まるところないんでしょ? 私の家に泊まっていかないかな!

意気揚々と明が言ったので私たちは遠慮なく泊まらせてもらうことにした。現代社会では野宿は難しい。明の家の窓からみる限り、ここは住宅街で、遠くの方にはビルがいくらか見える。都会近くで私と智雅くんと山田さんの三人では過ごしにくい。学生鞄の中に入っている異世界の物を売ってお金にし、安宿を借りる選択もあったのだが、これは願ってもいないことだ。ありがたくお言葉に甘えさせてもらう。


「まじ? 俺も泊まっていこうかなー」

「えー、光也にーちゃんも泊まるの? やだやだ」

「んだよ智雅」

「だって光也にーちゃんって明ねーちゃんのことが好――」

「くぉら! それ以上言うな!!」

「うわっぷ」


智雅くんと光也がじゃれ合う。どうやら光也は明のことが好きらしい。ふむ。なるほど。横から瑞季が「光也くん、一度明ちゃんにフラれてるんだけどね」とこっそり耳打ちした。

大蛇のことは明たちも詳しく知らないらしい。明日、また鏡面世界へ行くというので連れていってもらうことにした。山田さんはなにか知っているのかもしれないが、なんせ基本的に自分から積極的に加わろうとしない。神様だから思うところがあって手伝いなどしないのかもしれないが、大蛇のことは自分のことなのに今ものんびり煙草を吸っている有り様だ。


「まあご飯は食べていってよ。光也、瑞季」

「ラッキー!」

「ありがとう明ちゃん。手伝うね」


ふと窓をみればオレンジの陽が射していた。

明と瑞季が作った夕食を食べ終わり、光也と瑞季の二人が帰ったあとのことだ。のんびりさせてもらっている最中に山田さんが口を開いた。


「おい金髪のクソガキ。説明しろ」


テレビの音がBGMとなったリビングには私と智雅くんと山田さんしかいない。明は現在、入浴中で席を外している。


「え? なにを?」

「惚けんな。この世界はなんだ? 色々なものが入り交じって気持ち悪ぃ」

「えー、そういう世界、としか言い様がないんだけど」

「……どういうこと?」


山田さんは眉間にシワを作っている。智雅くんは山田さんと対面しつつ呆れた表情を浮かべていた。山田さんの隣に座る私とも必然的に向き合うかたちとなる。
山田さんの質問の意図がわからない私は彼に聞いてみた。


「なんつーかな、なんでも在りなんだよ。神も妖もなんだって存在する。気持ち悪ぃったらねえよ」

「……ふうん。山田さんはそれが気持ち悪いんだ」

「定まってなくてグチャグチャになったところがな」

「でも山田。それを俺に聞かないでよね。俺はこの世界の創造神だとかそんなんじゃないんだから。あくまでもこの世界で長生きしたってくらいなんだからさ」


智雅くんは困った表情を浮かべる。山田さんは何か言いたげにしていたが、その口は煙草を吸うことに専念した。そんなに煙草を吸ってたら体に悪いよ。私と智雅くんも。


「そんなことより葵ちゃん。訓練しよう!」

「へ?」

「ほら、訓練! 戦えるように」

「あっ、うん!」


智雅くんはパチンと手を叩く。駆け足して明の家の扉を勝手にあけた。明たちの話によれば、智雅くんはここで居候をしてたみたいだから間取りはしっかり覚えているのだろう。遠慮もなく開けたそこには和室があった。六畳の広さである。智雅くんはその中央に立って手招きをした。山田さんに見送られながら私は智雅くんに寄る。


「んじゃ、ま。まずは手合わせしましょー」

「えっ? いきなり!?」

「そ。あ、葵ちゃんは武器を持つの? やっばり格闘?」

「格闘のつもりだけど……、いきなりすぎない?」

「葵ちゃんは戦う技術を知らないだけで下準備は整ってるよ。とりあえず俺と戦ってみよう。それからアドバイスするから! それに葵ちゃんには合気道を叩き込んであるんだから頑張ってみて!」


智雅くんは笑う。しかし素手に足を開き、構えていた。私は不安に思いながらもそれに応じる。退屈そうに山田さんはこちらを見ていた。