「葵ちゃんや、山田さん、智雅くんは異世界から来たんだね。だから智雅くんは私たちが知るツバサじゃない。シナリオが原因で作られた偽物、でいいのかな?」

「うん、そうそう! さっすが瑞季! いや瑞季ねーちゃん!」


どうやら相手方は私たちの現状を理解してくれたようだった。しかし異世界から来た、なんて普通は信じられないと思うんだけど……。この世界には鏡面世界があるっていうことと異能者がいることが関連して私のトリップ体質を信じてくれたのだろうか。


「え、えっと、私の方もまとめていいかな」

「どーぞどーぞ」

「明、光也、瑞季とは、智雅くんの本体が、ずっと過去に知り合っていて関係が深い。今回私たちがトリップしたのはたまたま智雅くんと関係が深い世界だった、ってこと?」

「うん、そうだよ葵ちゃん! はなまる! 満点!」


よしよし、と頭を撫でられたが特に誇らしい気持ちにはならなかった。


「えー、と。俺らが鏡の中で何をしていたか。って話なんだけど。普通にバイトしてたんだよ」

「光也にーちゃん。それくらい俺は知ってるよ? そうじゃなくて、瑞季の異能の地殻変動まで起こして何をしていたのかと」


ん? バイト? 鏡面世界で?
アルバイトといったらお店の売り子をしていたり、新聞配達のイメージなのだが。明たちはそういったアルバイトをしている様子はなさそう。ていうか、鏡面世界でなにかできることでもあるのだろうか。


「あ。葵ちゃんと山田さんにはそこから説明しないとね」


訳のわからない様子だった私と山田さんの様子をみえ瑞季が教えてくれた。


「大抵の異能者は『アルモニア』っていう組織に属してるの。現実世界では異能者は極少数しかいなくて、秘匿しなくちゃいけないことなのね。この『アルモニア』は一つの目標がある巨大な組織。もちろん私たちも『アルモニア』の一員よ」

「……『アルモニア』。アルモニアって花の名前だっけ? 花言葉はたしか……、調和」

「葵ちゃん凄いね。知ってるんだ」

「偶然だよ」

「『アルモニア』は政府公認の組織なんだけど、一般的には知れ渡ることのない影の組織。異能者の存在を守り、一般人に知られることなく共存することが第一の目標。私たちのしているバイトは、『アルモニア』に従わず犯罪に走った異能者を捕まえること。それが仕事なの」

「鏡面世界で?」

「そうだよ。原則、異能者が異能の行使を許されるのは迷惑のかからない鏡面世界だけなの」

「じゃあさっきも鏡面世界で犯罪者を捕まえてたの?」

「うーん、今回は少しちがうかな」


瑞季は首を傾げた。光也に目を移す。説明には積極的に加わらない明も瑞季と同じように光也を見た。ずっと無言を貫いている山田は聞き手に徹しているようで、煙草を吸う以外に口を開かなかった。


「なんかよ、大蛇が鏡面世界をウロウロしてるらしいんだわ。たぶん召喚師が召喚したんだと思うんだけど」

「だ、大蛇!?」


私はとっさに山田さんを見上げた。山田さんは目があった私をみながら「んだよ」と低い声で言う。だって、大蛇といえば……。
ふと思い出されるのは恐ろしく大きな大蛇。少し前の世界で遭遇した、ヤマタノオロチ――。首がひとつしかなくても放つ殺意と威厳、そして死の恐怖をそのまま与える姿。まだ脳に焼き付いて離れない。


「山田さん……、もしかしてその大蛇……」

「今日は冴えた直感だな。そうだ。その大蛇とやらは俺だろう」