その日の深夜、ふと不安にかられて目を覚ました。智雅くんを起こさないように静かにテントから出る。
夜空は満天にはキラキラと輝く星。幻想的な星空に心を奪われた。視界いっぱいに星を入れる。強く光る星、小さな星。よく見たら赤や青も混じっている。とても美しかった。夜の闇が強いほど一層輝く星たちから目をはずせない。が、耳に届いたさざ波の音に違和感を覚えた。初めは心地よい音だとおもっていたのだが、よく考えてみると、トリップしたこの場所の近くに海なんてなかった。


「……」


空から陸へ視線を移して私は言葉を失った。そこには瓦礫があると思っていたのだ。

――しかし、現実は夢かと思うほど食い違っていた。

一面が海。海面に反射する星空がまぶしい。私はぐるりと周囲を見てみた。私たちがいる丘のように少し高いところは小さな島となっていたのだった。
私が直感で丘を選んで野宿にしたのはこういうことだったのか。


「お前は勘がいい。だがそれも曖昧だ」

「……山田さん」

「一面の海。人はいないが、ここは美しい世界だ」


静かに私の後ろから山田さんが現れた。山田さんは星空を反射する美しい水面から目を外さない。さざ波と程よく冷たい風が心地いい。海の奥には廃墟が見え隠れしており、なんだか儚い。
山田さんは私の隣に腰をおろす。


「小娘。酒の酌をしろ」

「鞄の中にあるもの、知ってたんだ」

「この前、坊主がうっかり口を滑らせていた。ま、それもシナリオだというのなら良くできた演技だ」


私はテントに戻り、智雅くんを起こさないように静かに鞄の中に手を突っ込む。お酒と盃を取り出すと、山田さんの隣に戻る。盃を手渡して、静かにお酒を注いだ。山田さんはこれまた美味しそうにお酒を飲むものだからそんなに美味しいのかと、味を想像した。山田さんに「お前にはまだ早い」と言われてしまったが。


「……山田さん、相談があるんだけど、いい?」

「酒のつまみに聞いてやろう」

「私ってなんでトリップするんだろう……?」


もうどれだけの時間が過ぎたのかわからない。どれだけ旅を続けたのかわからない。辛いことと楽しいことが両方ともあるこの旅。終わりがみえないのだ。トリップを始めにしたときから私はどこも成長していない。怪我の治癒はなるけど、ずっと髪も爪も伸びていない。生きている上ではこんなのおかしすぎる。

まるで、わたしはカイブツみたい。


「俺から小娘に真実を伝えるべきではない。然るべき時、然るべき存在から聞くべきだ」

「山田さん、知ってるの?」

「人間と神を一緒にするな。しかしまあ、手引きの手伝いをしてやらんこともない」

「ヒントをくれるの?」

「お前はまず自分が何なのかを探るべきだ。人間なのか、化け物か、それ以外の何かか。俺がお前らに付いて旅をする最大の理由がそれに触れる。封印はともかく、首集めなら俺だけでもどうにでもできる。座興よ」

「え? 私、人間じゃないの?」

「質問ばかりするな、たわけ。ほれ、酌をしろ」

「あ……うん」


ずい、と盃を出したのでお酒を注いだ。
なんだか胸がモヤモヤする。

――私は人間だ。
お母さんとお父さんがいて、兄がいる。都会ではないけれど、田舎にしては町のほうに住んでいる。中学生で、それなりに友達がいた。中学生らしく小さな悩みを抱えながらもそれらを吹き飛ばさんばかりの楽しさもあり、テストの点数で頭をかかえたりもした。
平凡は一般人。この記憶は本物だ。


「おお、流星だ」


流れて消えた星が、私の瞳に反射し、脳裏に焼き付く。酒瓶をきゅっと抱えた。