「うわわっ!?」

「おっとっと」

「……」


私と智雅くんと山田さんの反応はそれぞれだった。座ることもままならず、私は座っている瓦礫の上で手をつき、体を丸める。智雅くんは大きな揺れのなかでもまっすぐに私のもとまでやってきた。恐らく適応能力を使っているのだろう。智雅くんは私を守るように着ていた上着を私の背に被せる。


「大きいな」


なんて落ち着いた声で山田さんがいうのだから驚きだ。大地の揺れと同時にゴゴゴという地響きが混ざり、恐怖が高まる。


「なかなかおさまらないな……。葵ちゃん、大丈夫?」

「だ、だだ、だい、だっ、だいじょぶじゃ、なななないよ!」

「わあ、楽しそう」

「とともま、さくん!」

「ごめんねー」


人の不幸を楽しそうなんて言うんじゃない! まったく。智雅くんはいつものような調子で謝り、私の背に手を乗せる。そうやって私を守っていただけるのは大変ありがたいのですが、私にも適応能力をかけていただくともっと嬉しいんだけどな。山田さんはこんな大地震のなかでも煙管に火を着けてるし、この三人のなかで身動きできないのは私だけじゃないか!


「お。止んできたな」


ふう、と山田さんが煙を吐いた。地震は揺れをおさめていく。私はむくりと上体を起こしてから智雅くんに上着を返す。そのころにはもう揺れはなくなっていた。


「すごく大きな地震だったね……今の」

「この世界の人間はもういないのかな。この瓦礫、もう古いし。辺り一面瓦礫ばかりなのは気になるねー。そもそも生物がいるのかどうか。山田、どう?」

「生物すべてが絶滅するわけがないだろうが。人だってこの世界にいる。が、この大陸にはいないな。むしろこの近辺には意志疎通ができる生物はいない。ほれ、そこを覗いてみろ」


山田さんは煙管を私の足下へ向ける。今気が付いたが、そこには黒い穴があった。瓦礫が積み重なってできた穴だろう。私は瓦礫から降り、智雅くんと一緒に山田さんのさしたその穴を覗いてみる。


「っ」


息を詰まらせる。なんとそこには白骨があったのだ。どうみても人骨。久しぶりにみた骨と、いまだに残る血の後。死んでからいくら経ったのか。この世界はいったい何があったのか。何が起こったのか。
それこそ神のみぞ知るのだろう。


「死後十数年ってとこかな。二十年近く経ってるとおもうよ。パッと見、文化もそうとう進んでたみたいだけど天災には敵わず……、ってところかな」

「お気の毒に」


視界に入る限りでは信号や整備された道路、電飾の看板など、私が日本で暮らしていた文化に似かよっている。この白い瓦礫もコンクリートのようだし。


「どんなに知識を蓄えたところで神以外でないかぎり天災には絶対に敵わないってことだね」

「オイ金髪のガキ。なんで俺を見る?」

「べっつにー。それより山田はこの世界の状況はわからないの?」

「あん? 俺をなんだと思ってんだ。頼みごとがしたいなら供物を寄越せ。供物を」

「葵ちゃん、悪いけど山田に腕をあげてくれる? 大丈夫。葵ちゃんの腕なら再生は任せてよ!」

「あげないよ!?」


胸を張る智雅くんを一蹴した。失礼な。私は腕を抱くように組み、山田さんの鋭い視線から逃れるようにそっぽを向いた。目を合わせたら絶対に食べられる。私を非常食くらいにしか認識してないこの神様は絶対に私を食べる! 物理的に!
「両腕だけかよ。供物にしては少ない。足りんわ」と山田さんが文句を言っていたが知ったことではない。仲間なんだから割引してよね。あげないけど。


「と、ところで、今日はどこに野宿するの?」


私が苦し紛れにそう問うと、智雅くんは白骨と私を見比べながら笑った。口角を上げる程度の笑顔だが。ああ、私は知っている。彼のいじめっこ体質を。智雅くんが何かいう前に私はそそくさと野営できる場所を探し始めた。