トリップして早々、山田さんは智雅くんを睨んでこう言った。


「シナリオってなんのことだ。お前のその気持ち悪ィ器と関係あんのか?」


と。
廃退的な風景のなかで智雅くんは山田さんへ顔を向けた。笑顔が似合う智雅くんにめずらしく、そこには無表情があった。睨んでいるようにも見える鋭い眼光が、山田さんの視線と交差する。火花でも散りそうな彼らの雰囲気に、私は口などだすことはできず。


「すべての解析能力、認知、その他もろもろを遮断しているというのに、よく分かったね?」


智雅くんの言葉には殺気があった。しかし殺気でひるむ山田さんではない。山田さんは挑発するように鼻で笑うと、見下しながら智雅くんに答えた。


「ああ――。困難を極めたが、始めに俺をこの下らない肉体に封じたときに気が付いた。お前はそこのクソガキに俺を封じさせた様だが、そこにお前も僅かながら介入している。一瞬だけ繋がったパスが、お前の異常を認知した」

「は、ちょっと気が緩んでたかな」


そこのクソガキ、と言いながら山田さんは私を顎でさした。私はまだ山田さんが名前を覚えていないことに呆れながら、事の行く末を見守ることにした。
私は長い間、智雅くんと一緒に旅をするなかで智雅くんの事情を聞くこともあった。それは私の第六感で悟ったわけではない。悟るというのは第六感の域ではなく、また、すべての情報提供を拒む智雅くんは遮断しているようなものだ。智雅くんの情報はなにをもってしても知り得ること不可能。そこに可能の余地はない。私が知ったのは築き上げた信頼に寄る。

智雅くんは、シナリオに縛られている。


「いや? 俺だからできたことだ」

「なにそれ。自慢?」

「さてな」


自由がない。一切の自由が。


「まあ、いいよ。どうせ山田とも長い付き合いになるんだし、いつかは話そうと思ってたわけだし……」


智雅くんは辺りを見渡して、ちょうどイスの代替となる瓦礫を見つけるとそこに座った。曇天の下、智雅くんは空をあおいだ。そうだなあ……、と始めに何を話すべきか悩んでいる。
山田さんも適当な瓦礫の上に座ったので、私もそうした。私が座ったときには智雅くんは何を話すのか決定したようで、何時ものように明るい笑顔を浮かべ、口を開いた。


「この際、俺の出生についてのことは一旦忘れてね。異世界で生まれたのも、異能者であることも確かなんだけどね」


智雅くんとはなんとでもない数多の人々から異能者が隠れて過ごす世界で出会った。中性ヨーロッパのような、そんな町の一端で。
そのことを、今は忘れろと。


「昔ね、不死狩りってのがあったんだよ。ほら、俺って不老不死じゃん? 当然、標的になったんだよね。俺もさ。人間による不死狩り。それには目的があった。全世界の不死を集めることで、完全な不老不死を作り出すっていうイカれた研究の実験成果を得るために。当時、不死と呼ばれた異能者の実態は、伝説で聞く不老不死とは違う。本物の不死じゃなかった。やろうと思えば死ねたよ」


自虐的語る。智雅くんは切なげな表情をし、ため息を吐いた。呆れてるようにもみえる。自分の人生を下らないと一蹴するように。


「不死と呼ばれた異能は別に珍しくなかった。いや、珍妙な方だとは思うけど、一人や二人だけしかない、なんていうほど極端じゃない。男女共に複数あった。不死は『魔女』『悪魔』『黒魔術師』『妖』とか呼ばれることもあって、まあ嫌われてたわけよ。正式名称なんて知らないけど。この異能は殺した相手のすべてにおいての寿命を奪うことができた。これから生きられるはずだった寿命と、いままで生きてきた寿命。そして相手がいままで奪ってきた寿命」


案外、智雅くんの話に対して山田さんは真剣に耳を傾けていた。私はすでにこの話を一度聞いているが、何度聞いても人間とは誰もが冷酷なんだと思わされる。人間は他人より自己を優先する。どれだけ綺麗事を吐いたところで結局、自分が世の中で一番可愛いと思っているのだ。それに例外はないだろう。私だって、自分の命を優先して人の死を見送ったことはある。


「不死狩りとはつまり、全世界の不死を一ヶ所にまとめて、最後の一人になるまで殺し合わせることまでを言うんだよ。そして無限の寿命を得た不死こそが、本物の不老不死だっていう憶測に基づいてね。まあ、奴らの予想外ってのが、本当に不老不死が生まれたってことかな。不死でさえ数えきれない寿命を集めても有限の寿命だった。最後に残った不老不死には、正に死なんて存在しなかった。驚異的な自己回復力と絶対的な不死を手に入れたんだよ」