教会に着くと智雅くんが「たのもー」と行って扉を開けた。堂々と中に入っていく智雅くんの後ろを何事もない様子で山田さんが歩いていた。まるで知り合いにでも会いに来たかのような様子だったため、私はつい動揺してしまった。私が入り口付近で狼狽えていると、教会の奥から返事が返ってきた。


「はい」


すっと透き通る声が返事した。そこには褐色の肌を持つシスターが微笑みを浮かべていた。手には蝋燭を持っており「少々お待ちくださいね」といって蝋燭を壁に設置する。
私は智雅くん(私)の隣に立つ。山田さんはいつも通り一歩離れたところにいた。


「なんでしょう?」


用がおわると褐色のシスターは、やはり笑顔でそう言った。微笑むその表情を見るだけで心が洗われるようだ。なるほど。シスターというのはこういうものか。


「俺ら、中身が入れ替わってしまったんですよ。どうにかできません?」

「キス以外で!」


智雅くんの言った用件は単刀直入で、なんの前置きもなかったが、褐色のシスターは理解したようで、頷いた。しかしすぐ私が注文したせいで首をわずかに傾げ、困った表情をした。


「キス、嫌ですか?」

「だ、だってファーストキスは心から好きな人にとっておきたいじゃないですか!」


「葵ちゃん、可愛いとこあるねー」と智雅くん。「ってことはお前、結婚するまで処女は大事にする奴か?」と山田さん。山田さんには睨んでおいた。デリカシーがないんだよ、山田さん! まあ、私を非常食としか思ってないらしいからデリカシーなんてどうでもいいか。


「キスがダメなら交わって頂く方法もありますが……」

「交わ……?」

「葵ちゃんの処女を俺が貰うってことだよ」

「っだめだめだめだめだめだめ!! もう、山田さんが仲間になってから初めての話ばっかだよ!」

「葵ちゃん、俺の顔で赤面しないで……」


智雅くん(私)はこめかみに指をあてがって首を横に振った。いやいやいや、呆れた態度をとりたいのは私だよ! 私が、智雅くんと……!? むり、ムリ! 絶対に無理! 智雅くんは旅仲間! 別に好きじゃないし、私まだ中学生だよ!? あ、いや、トリップのせいで成長しないだけー、なんて言われたら反論できないんだけど。ってちょっと、なんで山田さんはそんな残念そうな顔をしてんの! もう、なんなの! 私は褐色のシスターに断固拒否の意を示した!


「そうですか……困りましたね。でしたら愛を語り合って貰うしか方法がありません。他に、二人なりの愛の確かめ方があるならそれでも構いませんよ」

「んー、別に俺たち付き合ってるわけじゃないし、愛を確かめると言われても……。まあでも、仲間としての愛はあるよ」

「愛っていうか、そういう、仲間としてなら私も智雅くんのことは好きだよ」

「はい、それでも構いませんよ。愛と恋は別です。どんな形であれ愛があれば、それを語らって頂ければ十分でしょう。ではお互い、向き合ってください」


褐色のシスターはどこからか聖書を取り出した。ページを開き、何語かわからない言葉で呟くと、「どうぞ」と私達に愛を語り合うように促した。
私が唾を飲んで覚悟を決めている最中に智雅くんが口を開いた。