二週間と少し、徒歩で足を進めていた私たちだが、やっと馬車と接触することができた。私たちを見た髭もじゃの馭者ほ非常に驚いて馬を止めた。
「どうしたんだ! こんな何もないところで」
「それが……」
「もしかして奴隷商人から逃げてきたのか! 町までわしが連れてってやるわ!」
「えっ」
「いい、いい。奴隷なんて古く醜い文明を続けるのはあのグレン連合国だけで良い! あいつらから逃げ出してこの国に来たんだろう、そんな薄着で……」
「あの」
「後ろに乗れ! 商品の山のなかに押し込めてしまうが、それも一週耐えればいいだけのこと。町に行って人生をやり直したい……。気に入った! ほれ、さっさとのらんか!」
「あの、ありがとうござ」
「そこの兄さんは自力で乗れるな。坊っちゃんとお嬢さんはわしが手を貸そう」
話をどんどん進めていく髭もじゃの馭者だが、まあ、町まで連れていってくれるのならなんでもいいか。 それから一週間のあいだ、町に着くまで非常に楽な旅をした。そのなかで、私たちはこの世界がどういう世界なのか、聞き忘れることはしなかった。
どうやらこの世界は「愛」で溢れているようだった。多数存在する国は一つの宗教に染まっており、「愛こそがすべて」と詠っているそうだ。聖職者とは神の力の一片を与えられているのだとか。そして、彼ら聖職者の目のある元では様々な奇跡が起こるという。しかしただ聖職者が見ているだけでは奇跡はない。愛を証明してこその奇跡らしい。たとえば、愛する人と愛を語らうことで欲しかったものが手にはいる、だとか。たとえば――そう、精神を入れ替えるとか。 きっとリーダーの女性は聖職者だったんだろう。山賊を束ねてたみたいだけど。 私と智雅くんのこの中身が入れ替わったというこの状況を打破するには聖職者にまず相談しに行くべきか。
髭もじゃの馭者にお礼を述べ、町に降り立つ。レンガで丁寧に作られた町。どこかでゆったりとした音楽が流れている。ふわりと香る甘い香り。町を歩く人々は、こだわった刺繍が施されている服を何枚も着て厚着をしていた。
「教会は、この道を真っ直ぐ行ったさきにある丘の上さ。そこにはシスターが一人しかいないが、まあ、彼女なら新しい就職先と家を提示してくれるはず。じゃあ達者でな!」
終止私たちを奴隷商人から逃げてきた奴隷だと思っていた髭もじゃの馭者は馬に指示を出すと私たちとは別れた。
「っ」
まずい、今、寒気がした。この寒気はトリップの前兆だ。時間がない。
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