ヤマタノオロチは今日から山田さんと呼ぶことになりました。そして同時に、私の旅仲間です。山田さんの力を取り戻すことに私たちが協力する代わりに山田さんも私に協力してくれるようです。説明おわり。



「えーと、私、村に戻りたいんたけど……お爺さんとお婆さんに謝りたくて、それで」

「いいよ。でも山田を連れていくわけにはいかないよ? 山田はヤマタノオロチだし、その肉体だってあの村の村人で、死んだはずの人なんだから」

「わ、わかった。用事は早く済ますね。いつトリップするか分からないから」

「そうだね。俺と山田は近くで隠れてるよ」



と、いうことでひとまず村の近くまで三人で向かうことに。山田さんは基本的にあまり喋らなくて、会話は私と智雅くんだけ。聞けば山田さんも答えてくれるし会話に参加していないわけではないようだ。



「じゃ、俺たちはここにいるから葵ちゃん、いってらっしゃーい」



智雅くんの激励を受けて私は村に踏み出した。
遠くからでも見えていたが、村はゴミの塊のようになっていた。村人は見るからに激減していて、私はお爺さんとお婆さんが生きているか不安に思いながら駆け出す。
お爺さんとお婆さんの家も、他の家と代わりなく木屑と成り果てていた。でも、老夫婦は生きていた。



「お爺さん、お婆さん!」



私は駆け寄る。そして真っ先に謝った。冷たく当たってごめんなさいと。するとお爺さんとお婆さんは片付けの手を休めて私の頭や背を撫でてくれ、抱き締めてくれた。優しい包容だ。



「いいんですよ。あなたたちがあのヤマタノオロチを封印してくれたんでしょう? ありかとう……」

「ああ、ありかとう、本当にありがとう」

「ごめんなさい。私、全然お爺さんとお婆さんを分かっていないのに」



お礼と謝罪を何度も何度も重ねた。老夫婦は泣きながら私を我が娘のように抱く。しばらくそうしていると、老夫婦から「そろそろ行かなくてもいいの?」と、言うのも辛辣げに涙を吹きながら私の肩に手を乗せる。私の背をお爺さんが叩いた。



「かわいい子には旅をさせよ、という。さあ、行ってこい」



私と老夫婦はここで別れた。きっと、もう出会うことはないかもしれない。同じ世界に同じ時代にトリップできるのは何億分の一という確率だ。

振り返ることなく私は智雅くんと山田さんのところへ戻る。その頃には異世界へ渡る直前の、独特の感覚が私を支配していた。例えようもない悪寒。私は智雅くんの手と、遠慮がちに山田さんの手を掴もうとして、着物の袖を掴んだ。



「あ、おかえり。今回はタイミングがいいね。前回は、さあご飯食べるぞーって時にトリップしたし」

「そうだよねー、あのご馳走……未練だあ」

「これが世渡りの力か。トリップ、だったか? 面白そうじゃないか」

「面白くないよ山田。トリップ先が海の中ー、だとかあり得るんだからねー? この世界にはいきなり空中に放り出されたわけだし」

「油断大敵」

「それを丸ごと面白いと言えないのか。お前らガキはつまらねえ人生観だな。そのまま腐って死ぬのか? まあ、俺には関係ないがな。腐ってしまえ」

「うわ、なにこれ言い返せない」

「反論もありません……」



雑談をのこし、私たち三人はこの世界から旅だった。