魔術を使ったり傀儡を操ったり、不老不死だったりと智雅くんの世界の異能者とは幅広いことができる。彼の異能がなんたるからこの際置いておくとしよう。
智雅くんの世界の異能者がなんなのか、説明すれば長くなる。
智雅くんは今度は召喚術を使っているわけなので。
土の中から桶のような物が自ら現れる前に私がそれは何なのかと聞くよりも前に私の意識は大蛇に向くこととなった。 智雅くんの異能で大蛇が此方を睨んでいたのだ。口から流れる血と臓物が時折地面に叩き付けられる。

私の目は吸い寄せられるように大蛇へ向いた。大蛇は私を睨んでいて、目が合うだけで息が止まってしまった。息が胸で詰まり、金縛りにあってしまったように身体はまったく動かない。――擬似的な死を感じる。



「葵ちゃん」

「……ッあ」



声がうまくでない。鬼灯の眼が逃がさない。



「葵!」



智雅くんの叫び声でからだが驚いて金縛りから解かれた。大蛇から目を背ける。あれをまともに見てはいけない。

しかし躊躇している暇などない。大蛇は私が目をそらしたとたん、大蛇は猛スピードで此方に牙を向けてきたのだ。みるみるうちに眼前に血濡れた刃が迫る。慌てて避けたが、あの眼は確かに私を捉えたままだ。避けた勢いで転んだ私は目を合わせないように注意しながら急いで立ち上がる。ぼけ、としている暇などない。死ぬ!



「智雅くん、準備は!?」

「できた!」



智雅くんは血の瓶を大蛇の口へ飛ばした。
もちろん異能を使っているのでひとりでに瓶が動いていることになる。大蛇が動いたおかげで何本か地面に割れて失敗したが、ほとんどは大蛇の口の中へ入ることができた。大蛇はすぐに自身の身体に違和感を覚えて、静まった。その間に私は物音を立てず静かに智雅くんに近寄る。
智雅くんのほうから私の手を握って引き寄せると「葵ちゃんはそこにいて」と指示を出す。大人しくそれに従った。智雅くんに近づいたせいか、安心してからすぐに私の体が恐怖で震えていることに気が付いた。カチカチと歯が重なり、寒くないのに全身は震えが止まらない。



「もうちょっと葵ちゃんに協力してほしいことがあるんだけど、大丈夫?」

「私に出来ることがあればなんでもするよ」

「本当は怖いんでしょ? 無理させてごめんね」

「大丈夫。気にしないで」



智雅くんは先ほど召喚した桶のような物に手を伸ばした。それは私の身長より少し小さいくらいの深さがあるものだ。私の身長は日本人の女性の平均身長より数センチ小さいだけなので、私の知っている桶のなかではこれが一番大きい。
智雅くんは中へ手を伸ばし、そして信じられないものを引っ張り出した。



「し、死体!?」

「死体だよ。別に驚くことでもないでしょ。葵ちゃんが捕まってる間に、ちょっとね。お爺さんとお婆さんに協力してもらったんだー。二人とも葵ちゃんが人柱になるのは反対だったみたいで。全く優しいったら」

「そうなんだ……」



私、お婆さんに冷たく当たってしまった。事が落ち着いたら謝らなければならない。いや、謝ろう。
罪悪感に浸っているのもつかの間。天から大蛇の叫び声が世界に響き渡った。大蛇は暴れることも出来ずに固まっている。体が言うことを聞かないようだった。



「今からこの死体に大蛇を封印する。封印するのは葵ちゃん。俺は葵ちゃんの中には流れる力を術式にするから……」

「ちょっと待って! 私が封印するの!? 私、智雅くんみたいな異能だとか魔法とか使えないよ!?」

「例えるなら葵ちゃんには火になってもらう。その火をどう扱うのかは俺に任せて。物理的に葵ちゃんはなにもしなくても大丈夫だよ」



智雅くんは死体を地面に寝かせながら説明する。
私がなにもしなくてもいいことはわかったが、具体的に何をするのかとか、本当にまったく分からないんだけども……。