ここは、この世界は、終わっている。

この村だけが、残された楽園だった。

破壊の音はとまらない。大蛇は夜を連れて最後の楽園を破壊しにきている。数時間もすればここは陥落し、世界はあの大蛇のものとなる。特殊な力を使っているわけではない。わざわざ使う必要がない。純粋な破壊行動でこの世界は壊すことができるのだ。



「私はあなたたちが救世主だと思っています……」

「救世主なんかじゃないです。ただの迷子に変な期待しないでください。私たちは利害の一致でしか協力しないですし」

「あなたと一緒にいた男の子、あちらに向かいました」



お婆さんは大蛇に手を向ける。
涙をため、泣かぬように全身に力を入れている。それは目前に迫る死の恐怖からか、涙に堪えているせいか、彼女は震えていた。



「ふうん」



私のこの返しは初めてこの世界の事情を知ったときと同じ。だが、私の視界には暴れる大蛇をしっかり映り混んでいる。



「智雅くんの居場所を教えてくれてありがとうございます」

「……伝えるように言われたので」

「よい最期を」



私は山を降りる。村とは別の方向へ。一度も振り返ったりはしない。

大蛇のもとに智雅くんがいるということは、彼はこれから何をするつもりなんだろうか。どうみたって避難しようとなんて思っていないことは明らか。まさか、本当に大蛇を封印するのかな。それは、なんのために?
私と智雅くんはめったに善行をしない。といっても悪行 ばかりをしているという意味でもない。基本的にはなにもしないのだ。とくに、こんな世界の行く末を決めてしまうような状況に首は突っ込まない。私たちには、ほぼ、正義感など存在しないのだ。

ならば、智雅くんは一体なにを……?


大蛇までの距離は近いものだった。日は沈んだが、思ったより近いところにあった。
ズズズと耳障りな地鳴りを辺り一面に響かせながら大蛇は村を目指している。近くで大蛇をみると、その大きく、醜く、恐ろしい姿は一段となる。その恐ろしいまでの殺意が私に向いていないのが、今生で一番の幸運だろう。

パンッ。

私が大蛇から少しずつ距離を離していると、わりと近くで聞きなれたその音がなった。そしてすぐに見慣れた少年が姿を現し、安心したところに突き刺す熱さが私の手首を襲った。どうしたのかとそこをみると、ちょうど動脈が切れていたのだ。
ドバドバとバカみたいに血が滴る。智雅くんは私に銃口を向けた状態を維持しながら近付いてくる。