奇跡を目の前で起こされて、お爺さんは信じられないと釜を凝視したり触れてみたりしている。お婆さんは開いた口が閉じなくて、ただ私たちと釜とを往復していた。
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ご飯を食べ終わり、お爺さんは大蛇のことを村長に伝えるために外に出た。お婆さんも川に洗濯へ行くと言って出ていってしまい、私と智雅くんが残された。お婆さんはすぐに戻ってくると言っていたがもう数時間経過している。 結局、私たちの話を老夫婦は信じたような信じていないような……、つまり半信半疑の状態だった。奇跡は信じたが、それが大蛇の封印に直結できないようだった。
「智雅くん、私も分からないんだけど……」
「え? なにが?」
「あの怪物っていうか、化け物っていうか、大蛇の封印のこと。本当にできるの? 私たち二人で」
「出来ないことを出来るとは言わないよ。俺。俺には知識があって、手段は葵ちゃんが持ってる」
「……私?」
「そそ。異世界を渡るほどの力を持つ葵ちゃんなんだよ。まあ難しいことを葵ちゃんに話してもしょうがないんだけど、なんというか、まあ、できるんだよ」
「んんー? 智雅くんを疑うわけじゃないんだけど、じゃあ具体策はどんなかんじ?」
「葵ちゃんの血をあの大蛇の体内にいれる。異世界の理を取り込んだ大蛇は一時的な急激な弱体化を見せるはずだよ。本当に一瞬なんだけどね。その隙を突いて、俺は大蛇を人間の死体に封じ込める。はい、終わり」
「人類滅亡一歩前に落とし入れてる首一つの大蛇を、それで封印できるの?」
「できるできる。俺は沢山の異能を解放する羽目になるけど、結局、要は葵ちゃん。よろしくね」
笑顔でそんなことを言われても人類を救ったことのない、むしろ救われる側の私がそんな救世主っぽいことをできるのか不安で仕方がないのですが……。 そんな私を放っておいて、智雅くんは「あとは大蛇を押し込める死体なんだけど」と頭を悩ませている。
なんでもない一般人の私と一端の異能者が強大な大蛇をどうにかできるなんて……、そんなこと……。
「二人とも」
ガラ、と限界の戸を開けてお爺さんが帰ってきた。その後ろには知らない人たちがたくさんいて、私は驚く。だって、開いた戸から外がみえないくらい埋め尽くされているのだから。
「村長に話してきた……。君たちの力を見せてほしいと」
お爺さんの枯れた声は少し落ち込んでいるようにも聞こえる。私と智雅くんは手招きに従ってお爺さんのいる外に出た――刹那、私の口が塞がれ、数多の手に引き寄せられる。遠くで「葵ちゃん!?」と智雅くんの珍しく慌てた声がした。数多の手に捕まれて自由がきかない手足。視界の中に智雅くんを探したが、布で目隠しをされてしまった。私の口からは智雅くんを探す言葉ばかりが発せられたが、口も塞がれ、沢山の人に担ぎ上げられるように何処かに運ばれてしまった。 遠くで智雅くんの怒鳴る声が聞こえたものの、その声は小さく、もう耳に届きはしなかった。
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