「俺を誰だとおもってんの? 不老不死の智雅くんですよ」



呆れたように智雅くんは言うが、待ってください待ってください。智雅くんが不老不死ってのは知ってるよ? もちろん私は知ってるよ? だから知識が豊富って言いたいんでしょ。分かるよ。でも不老不死だからってさすがにこの世界の神々でさえ敵わない大蛇をどうにかするのは不可能なんじゃ……。私たちはどう逆立ちしたって神には敵わないのだ。それなのに神以上の恐ろしい大蛇をどうにかできるわけがない。



「ふろう、ふし……?」



ああ、お爺さんとお婆さんにはその話からしなければならないのか。



「俺たち、旅人は旅人でも、異世界から来た旅人なんだよ。ね、葵ちゃん」

「そ、そうだね」



別に隠さなければいけないような事柄ではないのでお爺さんとお婆さんに話してしまっても構わないのだが、異世界から来たことと大蛇をどうにかすることは繋がったりはしない。お爺さんとお婆さんは智雅くんの思いがけない言葉に動かなくなってしまっている。私も智雅くんが何をしたいのかわからない。



「あー、もう。要約するとね、異世界出身で不老不死の俺はあの怪物の封印のしかたを知ってるし、葵ちゃんが強力してくれるなら絶対に失敗はしない。お爺さんとお婆さん、そしてこの世界を救ってみせるよ」



自信に満ちた智雅くんの言葉は頼りがいのある声。智雅くんが何をしようとしているのかは分かったが、お爺さんは不可能だと言った。



「もうこの世界の兵士や陰陽師たちは全滅しているそうだ。もうアイツを止めることなど出来はしない……。こんな辺鄙な田舎だからこそ、大蛇が来るのが遅れたがもう人類は全滅したも同然。……あんなもの、もう、止めることなど」

「まあ、信じて貰わなくても大丈夫だよ。お爺さんとお婆さんにはできるだけ新しい死体を墓から掘り出して貰えればあとは俺たちが勝手にやる。葵ちゃん生け贄阻止のついでだからね」

「いや、そんなこと、出来るわけ……」

「そうかな?」



終始、智雅くんは笑顔だ。
不意に箸を置いて私の箸も置かせると、私の手首をやや強引に掴んだ。
そして私の手を釜に向けさせた。智雅くんが何かすると、釜から溢れるように出ていた湯気が急速に収まる。すぐ真下では火が釜を熱するのに、釜から冷気が流れてくる。

釜のなかにあるお粥は直火に熱されることなく、逆に冷却されているのだ。通常では考えられない奇跡。すべての常識が逆転する奇跡を智雅くんは目の前で難なくこなしてしまった。