山田さんは人間しか食べないし、メアリーさんは不老不死だけど体が弱いみたいで少食だった。

「……死にそう」

どう見たって四人前とは思えないご飯を食べたのはほとんど私と智雅くんだ。

「で。お前が持っている情報はなんだ」
「ちょっと真剣な話だからちゃんと聞いてほしいんだけど……」

私の膝の上で「吐きそう」と唸る智雅くんは口を抑え、私は山田さんにもたれ掛かり「お腹が破裂する」と声を絞り上げた。
そんな私たちを見てメアリーさんは眉を下げる。困ったなあ、と全長一メートルのトカゲを撫でていた。

落ち着いたのは小一時間ほど経ってから。その頃にはテーブルに広がっているのは食器ではなく地図だった。

「ここ、町外れの雑木林のさらに先。ここにあるのは湖よ」
「まあ見ればわかるよね。それがどうかした?」
「智雅のシナリオに私と会話することが含まれてるの? 分かるでしょ?」
「俺がシナリオに従順な子犬って知ってるっしょ」
「とんだ狂犬の間違いじゃない」

メアリーさんは爪を噛んでシナリオに文句を言う。ちなみに智雅くんが狂犬なのは私も認めるところだ。
話の続きを催促する山田さんにメアリーさんが我に返った。ついでに吐血した。

「この世界に災害が訪れたのは初めてじゃないって言ったでしょ? 前例は過去にいくつもある。その度に救世主を召喚した。そして彼らは世界救済のために旅立つんだけど、みんなこの湖に辿り着くの」
「みんな? 最終的に?」
「そうよ。私が見てきたんだもの。間違いないよ」
「見てきたって、そんな頻繁に災害が起こるの?」
「やだなぁ。頻繁に起こっていたら人間滅びちゃうよ。前回は三百年くらい前だったかな」

あ、そっか。メアリーさんは不老不死だった。

そして改めて地図を見る。大きく描かれたお城を囲うように町が広がり、さらにその先には雑木林。そのなかを割くように細道が描かれている。その細道は隣町へと繋がっていた。町からたくさん放射線のように突き抜けたそれらを避けてドプリと穴が開いたようにあるのはメアリーさんの指した湖だ。
湖は黒く塗りつぶされている。色鮮やかに、細かく、美しく描かれたその地図はまさに「芸術」の名に相応しい一品だ。まったく素人である私の目を離さないし、漠然と人の気を引く魅力を覚える。しかしその地図に欠点があるとすれば、その湖だった。浮いたような違和感があるそれに智雅くんがしかめっ面をしてみせた。

「あまり良いものってわけじゃないんだね」
「そう。ここは人が寄らないことで有名。この湖に行った人は必ず帰ってこないの。あの世への入り口とも言われている」
「うわあお。忌みつきってわけか」

メアリーさんが静かにうなずく。山田さんは顎に手を添え、上半身を押し出して食いつくように見ている。

「まあ、俺がいるだろうな。確実に」

三つ目の首……。まだ半分も集められていないとおもうと気が遠くなる。
山田さんの口の端がつり上がった。

「おい小娘」
「うん?」
「少し厄介なことになりそうだぞ。次の首」

……なんだって?