「まぁっ、まぁまぁまぁまぁっ!」



お爺さんの家にお邪魔すると、そこにはたすきをかけたお婆さんがすでに朝食を作っていた。トントンとリズムよく鳴っていた包丁を止め、お爺さんを迎えるために開いた戸のほうを向く。すると、自然にお婆さんの視界には私たちが入るわけで。お婆さんはパァッと顔が明るくなり、私たちに満面の笑顔を向けたのだった。



「お爺さん、その子たちはどうなさったのですか?」

「喜べ婆さん。この子たちは旅人でな。しばらくうちで預かることになった」



「え!?」と私の異論を唱える余裕もない驚きと、「やったー!」と両手をあげて喜ぶ智雅くんの声が重なった。喜んでいるのは智雅くんだけでなく、私を除いた三人。



「なら、朝御飯はもっと用意しなくちゃね! ふふ、どれくらい食べるのかしら」

「婆さん婆さん、わしに『おかえりなさい』を忘れておるぞ……」

「うふふ。おかえりなさいませ。ご飯の準備はもう少しかかることになりますよ」

「はっはっは、むしろそうでなくては!」



笑顔で交わされる老夫婦の会話についていけねえっす。
私は学生鞄が肩から落ちるのに気が付けないまま、放心状態になってしまった。



「さあ二人とも。狭くて申し訳ないが、こっちへいらっしゃい」



お爺さんの声にも気が付けず、智雅くんに手を引いてもらう始末。囲炉裏を囲むように座らされ、お爺さんに何か質問されたが、こんな状態の私がまともな返事をするわけもなく、そのほとんとを智雅くんが答えていた。囲炉裏にお粥が運ばれてくると、食べ物の匂いでやっと私は我に返り、智雅くんにあきれられた。
ああ、お粥おいしい……。



「あっ、そうそう。葵ちゃん、あのこと聞かなきゃ」

「……ああ、あれ!」



行儀よく正座して食事をしていた智雅くんが鍋のお玉を離してから私の方を勢いよく振り返った。智雅くんがなんのことを指しているのか伝わり、私はつい、声を張り上げてしまう。お爺さんとお婆さんが首を傾げた。



「あの、ここに来る途中に大蛇を見かけたんですが」



ここまで話しただけで、老夫婦はそろって顔を暗くした。まずい。触れてはいけない話だったのだろうか。



「敬語は止めよう」



顔を暗くしたと思ったら第一声がこれだった。聞き直してしまうほど、斜め上にいく言葉。言葉が詰まるとはこのことか。



「えっ、あの」

「同じ屋根のしたにいるんだ。いつまでも敬語では窮屈だろ?」

「じゃあお言葉に甘えて!」

「智雅くん、さっきから甘えすぎだよ」

「葵ちゃんってば真面目だなあ」

「智雅くんがフリーダムすぎるんだって」



わー、わー、と私たちが騒いでいる様子すら老夫婦に暖かい目で見守られる。お粥を口にかけ入れたあと、私はお婆さんに「おかわりちょうだい!」と半ば自暴自棄になって言うと、お婆さんは頬のシワを濃くして笑顔になった。