拳銃に短剣を装着させることで近距離にも対応できる武器、銃剣。圧倒的な数と破壊力を持ち合わせるアサルトライフル。その大きな刀身は力強く、当たってはひとたまりもない大剣。
私が所持している武器といえば、たかだか護身用のナイフと己の拳のみ。

どうみても不利。降参したほうがいい。というか、きっと血の気の多い智雅くんと山田さんがいないんだから本来はそうしているはずだ。対抗なんてしない。わざわざ怪我を負うなんて馬鹿げてる。

……でも、今回は。
今回は違う。いつもと同じではだめなのだ。同じように助けられて、彼らの背中ばかりを見ていてはいけない。

私だって――無力じゃない!


「殺しはしないであげる」

「私は殺すけどね」


白先輩の余裕な笑みを崩すために、まずは一歩。大きく踏み出した。勢いをつけて、前へ。
黒先輩のほうから銃声が聞こえる。赤先輩のほうから土を蹴る音がする。目の前の白先輩は銃口を動かす私の足に向けた。引き金に添えられていた人差し指が動いた。
まばたきの後、私は黒先輩に肩を撃たれ、赤先輩に脇腹を刺され、白先輩に足をぐちゃぐちゃにされる。分かりきった直感は未来を予知した。だから、予め知らされた未来を私は回避する。

凶器が滑る空間は知っている。両手を地面につけ、足を空へ。腕を曲げてバネのようにして飛ぶ。私がいた所に銃弾と剣の切っ先が滑り込んだ。はっきりと視認できないほどの3つの攻撃があったことを尻目に、私は空中から白先輩の頭上へ落ちる。白先輩は射撃を急止させると私を見た。私が飛んでからここまで一秒もない。黒先輩と赤先輩はいまだに私のいた場所から目線を反らせていないほどの僅かな時間のなか、白先輩の状況判断能力は凄まじい回転の速さを見せていた。
冷や汗が流れる。


「!」


白先輩は口の端を上げて笑った。私が踵を落とす前に、彼はその腕を私のほうへ向ける。まさか、まさか、勢いをつけて振り下ろされる――むしろ落としているこの足を、掴……っ!?


「こら、危ないじゃないか」


なんて軽口を漏らして、彼は私の足首を確かに掴んだ。持ち上げられた私は逆さまに吊るされる。


「おいおい……」

「センパイったら、相変わらずチートっすね」


黒先輩と赤先輩は体勢を立て直しながらこちらによってくる。ああ、もう。あっさり捕まっちゃうなんて。


「……白先輩」

「ん?」

「えっち」

「――え?」


私が逆さまだということは、つまり重力に従ってスカートが捲れているということ。スカートを抑えた私の手元を、やっと白先輩は確認して言葉を失った。
「お前にはまだ早い」「えっ、ちょっ、子供扱いしないでほしいっす!」黒先輩が赤先輩の目を両手で塞ぐ。あの、高等部の生徒ですよね?


「あちゃちゃ。ごめん、あお――」


白先輩はその瞬間、確かに油断した。口上では落ち着いているが、その目は泳いでいる。心なしか私を掴む手の力も緩くなった。私は喋っている白先輩の顎を、捕まれていない方の足で蹴り飛ばした。手は離され、白先輩は地面に転がる。追撃だ。起き上がる前に、白先輩を絞める。