さらりと揺れ、落ちるのは白の髪。閉ざされたままの美しい顔はまっすぐ智雅のほうへ向いた。
生物ならば、その美しさに目を奪われるだろう。いくら殺気があろうと、その美しさには敵わない。顔を向けるだけで、殺気は消え失せ感嘆をもらす。創造神にそのような意図はなくとも、そんな影響があるのだ。だが創造神が敵にまわしたのは、生物の概念を外れた不老不死と世界を一度崩壊させた神だ。不戦勝にはならない。

智雅は無言で引き金を引く。眉間に食い込んだ銃弾。流れる赤い一線は鮮やかそのものだった。


「……死んだ?」

「一度な」

「一度ってなに」


智雅は頬を膨らませた。遠く出入り口にいる山田はふう、と煙管から吸った煙を吐く。


「神は役目を終えなければ死なない。こいつの役目は終わっていない。そういうことだ」

「……生き返るわけ?」

「お前とは違う。そもそも死んでいない」

「俺、山田の前で死んだことない」


むすっと拗ねる智雅はまるで外見の年相応。可愛らしく憎たらしい表情をみせているが、その爛々と輝く目にはどうしようもないほどの殺気とそれに対する快楽不足しかなかった。


「でも神話とかだと殺されるじゃん。神って。ヤマタノオロチだってスサノオにやられたくせに」

「あの小僧の話しはするな。腹が立つ。それ俺はあの小僧に殺されていない。……神話の神々はその時点で役目を終えたのだろう。ただ、ほぼ殺された瞬間に役目は終える。そいつが少し、いやほんの少し特殊なだけだ」

「じゃあ俺が求める根本の解決にはなってない」

「解決はした。小娘の洗脳は解けている」

「でもこの世界にまた捕まる」

「これは失敗だ。神が再び同じことをして同じ失敗はしないだろう。……まあ、奴が聡明ならな」

「やっぱり解決してない」

「神が再び同じことをして失敗しないと言っただろ、クソ馬鹿が。俺も神であることを忘れるな」

「山田って聡明じゃないでしょ」


スサノオに殺された策を忘れたの? とでも言いたげに智雅は不満な顔をする。しかし山田は馬鹿はバカでも力の使い方を知っている馬鹿だ。その力もすさまじい。頼りの綱に不安を覚えながらも智雅は妥協した。


「殺せなかった。残念」

「普段のいい子ぶりはどこへ行った。俺よりも邪神じゃないか」

「たまあーに悪ふざけしたくなるの」


くるくると拳銃を片手で回して、山田に近寄る。山田は何を考えているのか、内側をどこにも表すことなく踵を返した。
塔を出てもなお、世界の崩壊は収まっていない。むしろこれは再生ではないか。また一から作り直しているのではないか。そう考えると智雅は「ふざけてる」とただ一言を静かに呟いた。