朝、起きた。 頭がひどく重い。
「……」
大学の先生に呼び出されていたはずだが、これは体調不良だ。今日はずっと寮で休んでいよう。えーと、とりあえず担任の先生と私を呼び出した先生、それから友達に連絡をしてっと……。
そのままベッドのなかで事を済ませた私はもう一度眠りに落ちる。
「――ねーえー、ねぎってどうすりゃあいいの?」
「えー? 好きに切れよ。斜めでも小口でもなんでも」
「じゃあこんな風に」
「なんで乱切り!? 俺たちが作ってるのはお粥だぞ!?」
「あーもー、理貴うるさーい。葵ちゃん起きちゃったよ、ほら」
「智雅のせい……、あ、葵!」
うーん、聞き覚えのある声が。頭まで被っていた布団から顔を覗く。私の部屋にはお兄ちゃんと……えっと、誰? あの金髪碧眼の男の子は。彼は私と目が合うとこちらに駆け寄ってきた。ベッドの隣で膝まづくと、気持ちのいいくらい明るい笑顔を見せる。
「おっとと、確か始めましてかな? 俺は初等部の智雅。理貴とは友達なんだ。よろしく!」
「私は……」
「いいよいいよ、葵ちゃんのことは十分知ってるから。頭が痛いんだったよね? 俺と理貴でご飯つくってるから待ってて!」
智雅くん、は、私の頭を優しく撫でたあと、お兄ちゃんがいる台所へかけ戻っていった。 寝ていたおかげか、頭が軽くなったような気がする。目覚まし時計を確認すると、時刻はもう夕方の6時。ご飯時だ。
「お兄ちゃん、智雅くん、ごめん。ありがとう」
「気にすんな葵。夕飯ができるまでまだ時間あるからもう一眠りしてろ」
「もう十分寝たよ。大丈夫」
「じっとしてろ。手伝わなくても大丈夫だから」
「む」
やはり兄貴。私が二人の手伝いをしようとしていたこと、分かったのか。敵わないなあ。 私がふたたび布団を頭まで被ったことを確認すると、お兄ちゃんは調理を再開した。おそらく調理に不馴れな智雅くんの動きに手を焼くお兄ちゃんの声が響く。なんだか面白くて布団の中でくすりと笑ってしまった。
しばらく布団のなかで待っていると、智雅くんの元気良い声で「できたよー!」と聞こえた。病人を目の前にした音量とは思えないが、まあ、いつも通り。気にすることじゃないかな。
「そっちまでお粥を運ぼうか?」
「あはは、大丈夫だよお兄ちゃん。そこまでしなくても」
確かな足取りでベッドから抜け出すとテーブルの前に座った。 正直、雑に切られた具はともかく、美味しそうな香りが漂っている。れんげをもって、お粥を口に運べば、それはもう優しい味付けのお粥が口内を包み込む。今日なにもたべていなかったせいか、一口のお粥が体の中心からじわりじわりと染み渡っていく。
うん、素直に美味しい。
「ありがとう。お兄ちゃん、智雅くん」
「どういたしまして」
「……でさ、葵ちゃん。病み上がりで申し訳ないんだけど、俺のこと本当に覚えてない?」
智雅くんのそれはささいなひとことだ。ほんとうに、何気なく聞いたのだろう。ぱくぱくと自分の分のお粥を口に運ぶ最中での一言だった。 それなのに、私にはずしりと重い一言。
「えっと」
「葵と智雅は初対面じゃなかったのか?」
「はじめて、だとおもうんだけど」
ぐわんぐわんと頭が大きく揺れる。 初対面だろう。だって私は智雅くんを知らない。しかし、それを否定する感覚が、どこかにあった。
「葵ちゃんがそう言うなら俺たちは初対面だね。さっきのは気にしないで」
腑に落ちない。
智雅くんの言葉もそうなのだが、私が、なにか、忘れて――。
「ああっ!!」
「うわあっ」
思い出したー!! なんで忘れてたのか知らないけど、智雅くんのこと思い出したー! ずっと一緒にトリップしてたのになんで忘れてたんだろう!
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