じりりりり。あーもう、眠い。

あっ。今朝はたしか、大学の先生に呼び出されていたはず。
学校へ行く準備をしてから私は寮を出た。

大学の先生のところへ行き、今朝の用事を済ませたあと私は赤先輩に中等部の校舎まで送ってもらった。赤先輩はなぜかバイクを所持していて、運転ができる。どこからそんなお金が出てきたのだろう。親ですか。


「あ、また会ったね、葵!」

「葵じゃーん。おはー」


うんうんと赤先輩と別れたあと彼のバイクについて考えていると、明と光也に肩を叩かれた。振り向けば、二人は笑顔を私に向けていた。


「明と光也だ。おはよー。二人とも中等部の校舎に用があったの?」

「んや、そうなんだけど、そうじゃないっていうか……」


明と光也は高等部の先輩なのだが、私はため口。敬語を使っていない。この二人とは特別仲が良くて……、あれ――、どうして、仲がいいんだっけ? たしか、知り合ったのは最近だったはずなのに。そう、長い時間のなかで、彼女たちに出会ったのは……。


「中等部にいるから来てって智雅に言われたんだけど、智雅いなくって」


智雅――くん?


「あ、明、智雅くんさがしてる、の?」

「ん? そだよ。葵も智雅に用?」

「分かんないけど、あるような気がする……」

「じゃあ私たちとさがそう!」


私の右手を明の左手が繋がり、明の右手を光也の左手が繋がる。廊下では邪魔になるほどの幅で私たちは歩きだした。まあ、まだ朝はやいし、誰もいないからいっか。

一階から四階まである中等部の校舎を上がっていく。その最中で智雅くんの姿はなかった。

――私は、智雅くんが誰なのかわからない。分からないが、その名前には聞き覚えがあるし、会わなくてはいけないような気がする。どうしても智雅くんと、今朝会った怖い先生と合流しなくてはいけないような気がしてならないのだ。
そしてなにが原因か分からないがただならぬ違和感を覚える。


「うーん、いないねぇ。どこ行ってるのかな。トイレ?」

「え。トイレ、かなあ……?」

「光也、GO!」

「まじでー?」


光也はひとり、廊下に放られた。明は廊下の先にある男子トイレを指している。あの、恥ずかしいからやめてもらっていいですか……。


「ぶひゃっ!」

「え? あか――、わっ」


突然、明が奇声をあげて前のめりに倒れていく。手を繋いでいる私も道連れに廊下に転がった。なんとか私は、受け身をとったのだが、明は盛大に転び、目尻になにやら浮かべている。


「あははっ。成功ー! ごめんね明ねーちゃん、葵ちゃん。大丈夫?」

「と、智雅のバカ!」

「もー、智雅くん」


謝るくらいならはじめからイタズラをしないでほしい。
膝かっくんをしたようで、明は智雅くんの膝をぽんぽんと叩いていた。私たちに怪我はないが、悲鳴――というか奇声――を聞き付けた光也が男子トイレから出てきて、何事かと目を見開いていた。

ふと、何気なく私は、光也から明へ視線を動かす最中に窓を見た。
真っ白な窓を。


「――え」


なんで、白いの?
一面がただただ白いのだ。その先にはなにも存在しない。強いて言えば「白が在る」。
あわてて誰かにこの異常を伝えようとして手を伸ばした。

私の手は、空をきる。

だれもいない。そこには、明も光也も、智雅くんでさえ居なかった。