お爺さんに案内されて下山すると、そこには小さな村があった。木と藁で出来た家と、家畜の鳴き声。朝早くから働き出している大人たち。それらを視界に入れ、異世界に到着したことを再確認した。私の生きた現代とは過去を遡ったかのようだったが、ところどころ西洋文化が見え隠れしている。少し、文化が混ざった過去の日本という捉え方で良いのかな。



「と、智雅くん、私たち……」

「適応能力をかけてるから大丈夫だよ。俺たちの姿を変に思うほどの違和感は全くないはず」

「いつもありがとう」

「いいっていいって。この旅に無理矢理ついてきたのは俺なんだから、少しくらい役に立たせてよ」



智雅くんには感謝しきれない。

トリップといえば異文化の問題が始めに直面する。例えるなら、中世ヨーロッパにいきなり日本の侍が現れたような状況だ。逆に、江戸末期に黒船が日本に訪れた歴史を私の国は経験している。そのとき、原住民の方と馴染めるはずもない。奇妙な目を向けられ、周囲と馴染めず孤独に孤立する。この変な体質はいつ異世界に飛ぶかもわからないもので、誰にも助けられず独りで何ヵ月も生き抜かねばならない状況もあった。
智雅くんの適応能力は、単に言ってしまえは周囲と適応する能力。智雅くんはどうやら適応能力を極限まで極めたらしく――自称だが。しかしその効果は確か――、認識レベルの低下やら、その適応を私たち内側のみならず外側に働かせることができる。
よって、この村に現代の制服を着た私と、中世ヨーロッパ風の服装である智雅くんが降り立っても異質にはならない。



「二人とも、うちにいらっしゃいな。旅で疲れた羽を休ませるといい」

「そんな! そこまでお世話になるわけには……」

「かまわないよ。わしと婆さんは子供が好きなんだ。きっと婆さんも喜ぶ。それに、この村には宿がないよ」

「葵ちゃん、お言葉に甘えようよ。俺たちここ最近まともに寝てないよ」



そういえば前の世界でもサバイバルだった。平らな床が恋しい。屋根が恋しい……。でも純日本人として謙遜したいし、なにより申し訳ないじゃないか……!



「葵ちゃーん。おねがーい」



智雅くんに右手をブンブンと振られる。学生鞄を持ち直しながらお爺さんに、お言葉を甘えて、と頭をさげた。智雅くんには休むだけで泊まらないよ、と伝えたら「ケチ」と膝かっくんされた。完全に油断してた!
その様子をお爺さん笑顔で見守られていたのだから恥ずかしくなった。

早朝の村は人気が少なく、かたくなった土の上を歩きながらお爺さんに家まで案内された。どの家も木造。けっして大きいとは言えない家がちらほらと建てられ、近くには川が流れている音かする。草が揺れ、作物を眺めながらお爺さんの家に到着した。