じりりりり。
目覚まし時計の音に目が覚める。ああ、また朝が来てしまったか。まだ眠たいのだが、二度寝をしてはいられない。今日も学校なのだ。えー、と。身支度をしながら今日の時間割りでも思い出していよう。たしか、本日の花岸葵の予定は、と……。


「あっ。先生に呼び出されていたんだった!」


なぜか早朝から大学の先生に「用があるから研究室に来い」と連絡があったのだ。大学の先生に呼ばれるなんて思っていなかったから機能の私はびっくりだ。なにせ、私は中等部。中学生。大学の広い校舎と中等部の校舎は非常に遠く、また、生徒の名前を覚えられるほど深く関わったことがないはずだ。


「なーんで私を呼んだかなあ」


なんて呟きながら身支度を済ませた私は昨日用意しておいた食事を弁当箱に詰める。
学校へ行く準備をして、いつもより早く寮を出た。「葵ってば早いね! いってらっしゃい」と同じ寮に住んでいる高等部の明が見送ってくれた。

大学に行くまでの道中で黒先輩、白先輩、赤先輩に遭遇した。赤先輩に送ってもらう。そのお礼に弁当を渡してから先輩の研究室に入った。


「――あれ?」


研究室には誰もいなかった。


「先生、どこいったんだろ……」


呟いて、わずかに首を傾げる。そして研究室にあるソファーに座った。とりあえず、待つことにしようかな。そういえば私を呼び出した先生っていろんな噂が絶えない不思議な先生なんだよな。古典の先生なのに職務放棄してるだとか、由緒ある家に生まれただとか、それから恋人と駆け落ちしただとか、実は学園の運営者だとか。
私も見掛けたことはあるが、本当に不思議だった。遠目でも分かるほどの存在感。ただそこにいるだけで世界を支配しているような絶対的異物。死者のような白く冷たい肌は触れなくても分かる。

本当に、そんな先生と接点なんてないのに、なんで呼び出されたんだか。


「おー。早い早い。まさか先に来てるとはね。うっかり適当能力まだやってないや」

「はっ。わざとらしいな」


うーん、うーん、と考えていた私の思考が切り替わる。


「智雅くん、山田さん。ひさしぶり」


……――。

――。

こんな「変」な世界にトリップしていくらか時間が過ぎ、その間二人に、なぜか、会うことができなかった。すべてを取り戻した私は、先程までの私を棄てる。


「まったく、この世界は狂ってるよ。ま、でも葵ちゃんが思い出してくれて良かった。いまのうちにトリップしちゃいたいんだけど、そんな予兆ある?」

「うーん、ないかなー。でも狂ってるってどういうこと? 私には、ただ記憶をどうしてか失ったくらいの世界しかわからないんだけど」

「そもそもそこがおかしいんだよ。詳しいことは山田が知ってるはずだけど……、この世界は本来、真っ白でなにもないはず。なのに、こーんなにもいろんなものがある。まるで――」