久太郎くんの「時空間支配」という異能が制御しきれないがためにトリップを繰り返す目の前の双子は、私と違ってトリップができる時期を察知したり、トリップの瞬間ならばある程度コントロールできるらしい。


「そっか。寂しいけど、トリップならしょうがないね」

「大丈夫ですよ、葵。どうせまた会えます。僕たちと葵たちは縁があるようなので」

「……トリップ中に縁なんて考えたことないけど、そうだね。智雅くんと山田さんとトリップするのもきっと縁。同じようにトリップしているんだから再会できたって不思議じゃないもんね」

「ええ、一度会ってしまえば縁は結ばれる。では、暫しの別れです」


まだパラパラと雨が降る甲板の上。
私たちは秀政くん、久太郎くんに別れを告げる。「まったねー」と両手を大きく振る智雅くんに見送られながら秀政くんと久太郎くんは数歩私たちから離れた。
二人は頭を下げ、そしてそのまま、空気に溶け込むように、霧となって霧散するように、静かに消えた。


「智雅くん、いい人たちだね。秀政くんと久太郎くん」

「根本は優しくて他人思いでいい奴だからね。一応」


その「一応」の部分は秀政くんの毒舌が由来だろうか。
「そういえは秀政と久太郎いなくなったけと『レベルオー』どうすんの」と智雅くんが困りましたと首をかしげて見せた。


「あの下級生物と相討ちになったとでも言えば良いだろう。それよりガキども。陸地が見える。今日中に港に着くだろう」


山田さんはそっけなく、海の先を顎で指したが、人間の肉眼では見えません。が、智雅くんは見えるらしい。……私も視力はいいはずなんだけどなあ。
それから山田さんの言う通り、港に到着。リーダーを失った「レベルオー」の皆さんは悲しんでいたが、人生はこれからなのだ、生きていくために仕事を探して、家を探さなくてはならない。私と智雅くんと山田さんは手持ちの要らない雑貨を売ることでお金は得られるのだが、奴隷の皆さんはそうではないのだ。

一時的に皆が住める家を買った。秀政くんたちにそうするよう、智雅くんは指示を受けていたらしい。「家を買えってよく簡単に言えるよね」と文句を言っていた。まあ、その分の大判小判は貰っていたようだが。

私たちがこの世界からトリップしたのは、秀政くんと久太郎くんがトリップしてから半年後のことだった。