「もっ、申し訳ありません!!」


土下座をしようとする久太郎くんを大慌てで止める。久太郎くんがわざとやったことではないことくらい分かる。異能がコントロールできていない話も聞いていたのだ。今のは事故というやつだろう。


「私たちを助けようとしてくれたんでしょ? 山田さんのお陰で怪我もないんだし、大丈夫だよ。土下座することなんて……」

「いいえ! 謝らせてください!」


ぐぅ、さすが男の子。力が強くて土下座を止められそうにない。
山田さんは相変わらず知らんぷりだし、秀政くんは私を手助けするより久太郎くんに謝罪を推奨している。しかし土下座をされるなんてとんでもない。結局、頭を下げるだけに止まった。
智雅くんがレベルオーの人たちを連れて帰ってくるまで、船の知識がある人と共に出航の準備をした。

智雅くんたちが帰ってくると、私たちはすぐに出航。
監獄島から脱出した。


「ふぅー、一息。潮風がきもちー」

「風が心地好いですー」


智雅くんと久太郎くんがのんびりと甲板で寛ぎ、山田さんは昼間から「脱出祝い」などと称して一部のレベルオーたちとお酒を飲む。その中で私と秀政くんはこれからについて話を進めていた。


「秀政くんたちはこれからどうするの?」

「これから、とは?」

「この船がどこかの陸地に着いたあとのこと」

「申し訳ありませんが、僕たちは港につく前にこの世界からいなくなるでしょう」

「もうトリップ? そういうの分かるの?」

「ええ。朧気に……、ですが。ですから先のことはあまり」

「そっか。せっかく出会えたのに」

「そう悲しむことはありません。僕たちの縁はこれきりではないはずです」


着物の袖に手を入れて、秀政くんは微笑む。見ようによればそれは含み笑いだった。内緒事を秘めた大人っぽい笑顔。つい、口を閉ざして追求を止めてしまう。


「また会えるかも知れない?」

「そうですね。僕はそんな気がしますよ。ふふ。どうやら葵は寂しがりのようですね」

「えっ。そんなことないよ」

「大丈夫です。会えます。縁とは、結ばれればそう簡単に途切れることはありません」


秀政くんは、思ったことをそのまま口にするらしい。あまりにスラスラと言われるその台詞に気圧されてしまう。
秀政くんと久太郎くんは智雅くんと再会をしたんだから、再会がゼロであるとは考えていないらしい。一度あることは二度ある。そう思っているのだろう。
私だって、これで終わりだとはどこか考えていない。なぜか、また会えるような気がするのだ。直感だ。


「……智雅、船の下になにかいません?」

「俺もちょうどそう思ってたとこなんだよね」


甲板の手すりから海を眺めていた智雅くんと久太郎くんがヒソヒソと小さな声で話をするのが聞こえた。二人は身を乗り出して海を凝視している。危ないと注意しようとして、秀政くんが槍を握ったのが視界の端に入った。「みなさん、甲板には出ないでください。船の奥へ」 レベルオーの人に注意を促す秀政くん。どうしたというのか。
ふと、空から影が落ちる。太陽を灰色の大きな雲が覆っていた。


「ど、どうしたの?」

「あまり自由に動き回ることは勧めんな。小娘」

「山田さん」


ゆらり、と船が揺れた。


「嵐だ」