そこには眼帯の弟の姿が。彼も、その後ろにいる眼帯の兄も槍と着物を血で赤く染めていた。


「ああ、良かった! 無事でしたか」


ほっと笑顔を見せる眼帯の弟。
私たちのすぐそばにある死体をみて、なぜか必要以上に各部位が大きく破損していて眼帯の兄は首を傾げた。山田さんは煙管を片手に涼しい顔だ。


「船が確保できました。行きましょう」

「他の人たちはもう船?」

「はい。すでに船へ向かっています。葵たちが最後です」


眼帯の兄は私たちを案内して、外に出た。ときおり看守たちがいたが、みな手負いか死体のどちらかだった。


「けっこう暴れたんだね」

「ちょっと異能を使いすぎた気もしますけどね……。過剰攻撃だったかもしれません」

「人権を無視されたんだから、別に……、うん? あれ? え?」


あはは、と笑い、智雅くんに肘でつつかれる眼帯の弟。いま、何か重大なことを言ったような。というか、言ったよね。言ったよね!


「あの、今のもう一回言ってもらっていい?」

「はい? 過剰攻撃だったかも、と」

「その前だよ!」

「……僕、なんて言ってましたっけ?」


はて、と首を傾げる眼帯の弟。すかさず眼帯の兄が「もしかして異能を使いすぎた、の部分ですか」とフォローを入れた。それだよそれ!
私が山田さんの着物をつかんで、智雅くんと仲が良い原因かも! と騒ぐと捕まれていた手を叩かれた。痛い。容赦ない。


「僕たちのこと、説明してませんでしたっけ」


船の前まで着き、眼帯の兄は弟と顔を見あわせた。
智雅くんが「あー。言うの忘れてた」と目線を私からずらした。智雅くん、眼帯の兄弟のことはなにも知らない。
船の甲板に到着すると、仲間が全員揃うまで説明を少し受けることになった。


「てっきり智雅から話を聞いているとばかり思っていました。何も知らない……となれば名乗るところから始めましょう」


落ち着いた雰囲気を保ったまま冷静に眼帯の兄は言う。ゴホンと咳払いをしてから眼帯の兄は微笑を浮かべ、自己紹介をしてくれた。


「改めまして、自己紹介仕る。私どもは戦乱の世から訪れた武士。名は秀政。強制の異能を持つ異能者。よろしくお願いいたしまする」

「左の兄者に同じく。名は銀、もしくは久太郎と申します。異能の力は時空間支配。よろしくお願いいたしまする」


深々と頭を下げる彼らに私はポカンと口を開けた。


「い、異能者……? 戦乱の世?」

「ふむ。興味深い双子だな。なるほどなるほど」

「待った待った待ったまったまった! ちょ、ど、う、うぇっ!? と、とと、智雅くん!」


私は智雅くんの肩を背後から掴んだ。こ、この隻眼双子は短い文章でとんでもない爆弾を二つも用意してくださった。用意っていうか、もう爆破したようなものだが! 頭が追い付かない。待って待って。それってつまり。この双子は。もしかして。まさか!


「はいはい葵ちゃん。落ち着いて。日本語を和訳してあげるから、一度深呼吸をしよう。山田くらい冷静になろう」


ぽんぽんと私の手の上に智雅くんの手が重なる。智雅くんと向き合って私は深呼吸。ああ、だめだ。心臓がうるさい。


「双子の兄の名前が秀政。弟のほうが銀。まあ今は久太郎って呼んだほうがいいかもね。二人は異能者だよ。ここまではいい?」

「お、おーけー」

「秀政と久太郎は葵ちゃんと同じであちこち世界をトリップしてるの。その原因は久太郎の時空間支配の異能が時おり暴走するからなんだよ。時間と空間を操る最高峰の異能。その力をもて余した結果、異世界を超越してるわけ。まー、つまり自分の異能をコントロールしきれないってことだね」

「わ、私と同じトリップ体質!?」

「体質ではないけど、まあ結果、同じような現象ではあるね」


異世界を渡る力。その持ち主に出会えるなんて!
過程は違うものの、結果はほとんどおなじ。まさか出会えるとは思わなかった。まさかそんな人が私以外にいるとは思わなかった。