地獄は一週間続いた。 同じ単純作業をただ淡々とこなす。空腹に耐え、疲労に耐え、機械のように心を失ってしまいそうだった。麻袋は重い。腕が痛くなり、肩が痛くなり、腰が痛くなり、全身が痛くなる。しかし休むことなど許されない。鞭で叩かれてしまうのだ。
智雅くんはなるべく早く仕事が終わるようにと、誰よりも速くテキパキと働く。山田さんはとくに目立つことはなかったが、文句を言わず働いていた。二人が頑張っているのだから私も頑張らねば。 眼帯の兄と弟の作戦に協力すると決めた以上、無理に目立ってはいけない。「その他大勢」を演じきらなくては。
作戦の内容はこの一週間で聞いている。耳にタコができるくらい作戦の内容は聞いている。
この監獄島についてはすべて頭に叩き込んだ。 決行は昼間。白昼堂々行うようだ。夜の方が警備が厳しいだとか、脱出する船がないとか、理由は様々だった。 今日この日をレベルオーのみんなは待ち望んでいた。
「陽動は僕たちだけで行います」 と、昨夜眼帯の兄が言った。頷いたのは眼帯の弟だ。どうやらこの双子が陽動を担うらしい。 食堂の雑音に紛れて行われる作戦会議に参加する人の人数は私も把握できていない。ただ、レベルオーの人たちは紛れて行う作戦会議が上手いことだけは分かった。 私と智雅くんと山田さんが割り当てられたのは武器庫の確保だった。レベルオーは真っ先に得物を手に取る。 その武器庫は保管庫としても兼用され、看守たちの武器だけではなく没収された私たちの私物もあるらしい。服は棄てられたけど。
作戦の決行は正午だ。看守たちは昼食をとる。 真っ先に智雅くんが動いた。お手洗いに行きたいと主張し、そのあとに少し時間を空けて私もお手洗いを主張する。お手伝いに入るまで看守は最低でも一人は見張りに付いてくる。
「あの」
「あん? なんだよ」
口の悪い看守の男に振り返り、私は猫だましをした。そして一瞬怯んだ看守の手を取る。手首を内側に反して肩の部分を押さえ付けるように、支える。看守は倒れこんだ。うつ伏せに倒れた看守の顔面を蹴る。 彼自身に恨みなどないのだが、ここは再起不能になってもらう。私たちが脱出するために。
看守の鞭を拝借して手を拘束すると私はお手洗いの外に出た。そこで智雅くんと合流。二人で武器庫まで行くと、そこにはすでに山田さんや眼帯の双子がいた。ほかにもゾロゾロとレベルオーの一員と思われる囚人が集まる。山田さんが武器庫の扉を容易に破壊し、各々中に入って手に合う武器を揃えた。
「山田さん、なにを探してるの?」
「煙草だ」
「依存性になっちゃうからホドホドにね……」
煙草を見つけ、手に取ると山田さんは火をつけた。もう依存性かもしれない。
「葵」
山田さんの情けない姿を見て肩を落とす私に眼帯の……、あ、弟だ。眼帯の弟が後ろから声をかける。
「僕たちはそれぞれ作戦に赴きます。看守を武器庫に入れないように、お願いしますね」
「うん。頑張るよ。あなたたちも頑張ってね」
「ええ。ご武運を」
いつの間に着替えたのだろう。眼帯の双子は囚人服から着物に着替えており、二人とも刀を懐にさしていた。手にはそろって槍を持ち、さながら戦場に参上した武士のように思えた。
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