ただ無心になって麻袋を運び続け、早朝に始めた仕事は夜中になるまで続いた。昼食と休憩もない労働の末、やっと夕食の時間がやってくる。昨日眼帯の兄が言っていた「奴隷のような」生活はあながち間違いなどではなかった。
すでに夕食というよりは夜食とも呼べる時間帯に、やっと食事の時間がやって来た。昨日と同じように私たち五人は集まる。

私はトリップ生活をしていたせいか、体力の限界をむかえることはなかったが、他の人たちは突然の過度な労働に食事も摂らず寝込んでしまっている。


「やっ。ごめんごめん、待たせたみたいで」

「遅いですよ、智雅。そして山田さん」

「いろいろあってさー。ま、気にすることはないよ」


食堂に智雅くんと山田さんが遅れて合流した。今日は眼帯の弟と一緒ではないらしい。眼帯の兄と弟は私とテーブルについている。


「俺今日もごはんいらないから食べちゃって。当然山田も」

「山田さんはともかく、智雅くんもお腹すくでしょ? なにか胃にいれておいた方がいいよ」

「だーい丈夫だよ、葵ちゃん。葵ちゃんたちのほうが食べた方がいいって」


私が心配し、智雅くんが気遣ってくれるなか、今晩も隻眼双子は「ではお言葉に甘えて」と言って遠慮なく智雅くんと山田さんのごはんを三人の皿に取り分ける。
なんだか複雑な気持ちだ。私の隣にドカッと座る巨体を見げ……、うん? あれ、山田さんから変な臭いがする。なんだか、血生臭いような。てか、あれ? この臭い、血?


「や、山田さん、つかぬことをお伺いしますが……」

「なんだ」

「お腹の具合はどうかな。主に食欲について」

「十分だ。看守とやらの女は処女ばかりで美味かった」

「……まさか、智雅くんと山田さんが遅かったのって」

「先に食事を済ませた」

「だ、大丈夫なの? 見付かったら……」

「目撃者は処女でない限り殺したわ。ここでは処女の食い放題だからな。他に用はない」


「大丈夫。完全犯罪だから!」と謎のフォローを入れる智雅くんは笑顔だ。ああ、智雅くんも殺したのね。私と眼帯の兄と弟が食事をする中、今日も食堂で鞭を叩かれる人がいる。私はそんな人を横目に食事を続けた。


「一日に何人死ぬの?」


智雅くんはテーブルに肘をつきながら鞭を叩く看守と叩かれる囚人を眺める。


「少なくて一人です。最近は智雅たちのように新人が多いので一日に亡くなる方の数は多めです」

「俺、次鞭で叩かれたら虐殺するわ」

「すでに叩かれているのですか」

「そそ。得物を持ってたからね。それでね」

「ここは基本的に理不尽ですからね。自我を無くす方も少なくありません。智雅も、自我を忘れて大量虐殺なんてしないでくださいよ」

「自我をもってしてアレだから。俺。いざ脱出するって時は手助けするよー?」

「それは助かります」


にこやかに智雅くんと眼帯の兄は語らう。その間、暇をもて余したのか眼帯の弟は私と山田さんに話し掛けた。パンにかじりつきながら好奇心に瞳の色を染めている。


「良かったんですか? 智雅にほとんど無理矢理『レベルオー』に参加したようなものでしょう? 作戦まで参加しなくてもいいのですが」

「私は構わないよ。二人にはお世話になってるし」

「その言い分では脱出日時はもう決まっているようだな」

「はい。長い時間をかけて下準備をしてきました。成功させるには戦力が少なすぎる。……いざとなれば容赦をするつもりはありませんが、それでも正直人手が足りないのです」

「出来ることがあるなら手伝うよ。こんな血生臭いところ、私は嫌いだから」

「小娘はともかく、あのガキならば戦力に十分だろう」

「ところであなたたちは戦えるのですか?」

「うーんと、私は自己防衛くらいしかできないかな……」

「この俺が人間相手に負けるわけがない」


眼帯の弟は満足そうに微笑んだ。
どうやら決行は一週間後らしい。ほとんど捲き込まれるような形ではあったが、私たちも『レベルオー』の作戦に参加することにした。傍観者を決め込む私たちはどうにも、思う通り傍観することはできないらしい。