奴隷のような生活が始まった。
早朝に叩き起こされ、老若男女問わず工場で働かされる。機械などなく、ただ単純作業が黙々と続けられる。ここで何を造っているのか、監獄島に運び込まれた重い麻袋を工場に運ぶだけの私には分からなかった。あちこちに看守が立っていて、私たちが少しでも忠実に働かねば鞭を振るった。


「うえっ、ひっく、お、お母さん、おかあさん」


智雅くんよりも小さな、恐らく五歳の女の子はあまりの重労働に泣く。その女の子でさえ、容赦なく看守は鞭を降り下ろしていた。耐え兼ねた一人の老婆が女の子を庇う。女の子を抱きしめ、鞭を背中に受ける。看守の振るう鞭は強くなり、老婆の命を削った。
誰にも、どうすることもできないのは明白だ。私と同じく昨日監獄島に送られた人がやりすぎだと抗議したが、その人も問答無用に鞭で殴られる。


「お前らは、俺らの言う通りに動けばいい! 反論するな、抗議するな! 虫けらどもめ!」


看守が集まり、老婆や抗議した者を集団で殴り始める。
その結果、老婆と老婆が守りたかった女の子、抗議した者は死んでしまった。


「……」


ちょうど、私の視界にそれを眺めていた山田さんが目にはいった。山田さんはただ無言で看守たちをみたあと、仕事をする。あの山田さんが大人しく仕事をするなんて。すでに仕事を初めてから三時間が経過したが、今頃山田さんは怒っているのだと思っていた。
神話の神を奴隷としたからだ。看守たちを皆殺しにするのかと。いつか私の意識を拐った賊を殺したように。
あの神様は何を考えているのだろう。


「おい、そこの女。何をボサッとしている。働け!」

「すみません」


仕事を再開する。三階建ての家ほど積まれた一つ10キロは確実にある麻袋を今日中に工場まで入れなくてらならないようだ。工場までの距離は500メートル強。どう考えたって今日中に終わるのは難しい。


「葵ちゃん。大丈夫?」

「智雅くん……。大丈夫だよ。ありがとう」

「限界になったら俺に言ってね」


看守を皆殺しにするから。
智雅くんは私にこっそり耳打ちすると、三つの麻袋を軽々しい足取りで運んでいく。体が小さいだけで実は三つ以上の麻袋を持てるのではないかと疑うほどの軽々しさ。
てか、なにいまの耳打ち……。
ああ、そうだ。智雅くんは好戦的なのだった……。
私は抱えた二つの麻袋を持ち直して工場まで運び続けた。