夕食中に智雅くんは眼帯の兄に話をつけて、革命団体に入団すると話をつけた。そこにはもちろん、私と山田さんも含まれている。面倒なことになった。異世界では傍観者でいる主義であるのに。文句のある私と違って山田さんは嫌そうな顔をせず、口にフォークをくわえていた。お行儀悪いよ。もしかして煙草代わりだろうか。
「山田さん、お行儀悪いよ。フォークを噛まないで」
「煙草がないからな」
「あ、本当に煙草代わりにくわえてたんだ」
「こんな糞みてぇに小さな身体に閉じ込められればストレスくらい溜まる」
「……えっと、なんか、ごめん」
ヤマタノオロチが人間の死体ごときに閉じ込められればそりゃそうだよね。うん。
「葵、智雅、山田さん」
ふと、眼帯の弟に呼び止められる。最後の一口であるパンを食べる寸前だ。彼は笑顔を浮かべていた。隻眼でもスッキリするほどの爽やかな笑顔だ。
「これから、よろしくお願いしますね」
これが、本当に「これから」になるとは、当然いまの私には想像つかなかった。
「それにしてもさー。君らなら脱獄なんて簡単なんじゃないの? なんでいつまでもこんなところにいるわけ?」
「ああ。そのことですか。それなら簡単なことですよ。僕たちもあなたを見習って楽しもうかと思いまして」
「そうだったの? あはは、どう? 楽しいでしょ」
「はい。あの人たちも一緒でない所がもったいないです」
「いいのいいの。モルスと俺は散々海を旅したんだし、義松もうんざりするほど旅をするんだしさ! まあ 俺らほど規模はでかくないんだけどね」
「智雅は不老不死ですからね。あなたが言うのならばそういった過去も未来もあるのでしょう」
私と山田さんの顔が同じかたちに歪む。智雅くんは眼帯の兄と心置き無く話をし、そこにときどき眼帯の弟がまざった。明らかにこの双子は智雅くんのことをよく知っている。私の知る以上に。何者だろうか。
「神様神様。どういうことなの?」
「知るか。俺に聞くな」
智雅くんとこの隻眼双子の関係は一体なんなの? さすがの山田さんもどうやら知らないようだ。 私たちの食事は、智雅くんと隻眼双子の関係性に謎を生んだまま終了し、それぞれ独房に戻っていった。道順の分からない私のために眼帯の兄は案内してくれる。その途中、何人かの囚人が眼帯の兄に元気よく挨拶をしていく。それは老若男女。革命団体というのは密かに大きな勢力となっているように思える。
「革命団体の名前ってないの?」
「『レベルオー』といいます。看守やほかの囚人にはバレないよう、普段この団体は僕の呼び名で呼ぶようにしています。いざと言うときの被害が最小限になるよう」
「あらかじめ首謀者の名前を挙げておくってわけか……」
「ええ」
「奴隷のために連れてこられた人の団体って聞いたけど、あなたもその一人なの?」
「そうですね。ここでは」
――ここでは? やはり気になる言葉だ。わざと洩らしているのか、眼帯の兄は微笑んで見せた。
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