「なにー? リーダーってどういうこと?」


智雅くんも同じことを思っていたようで、私と同じ疑問を口にした。その質問には眼帯の兄ではなく眼帯の弟が答えた。やはり「そうですね……。智雅なら信じましょう」と気になる言葉を呟く。


「我々はたしかに犯罪者ですが、中には極悪犯などではなく、ただの労働のために連れて来られた方もいます。そんな人たちを集めて革命を起こそうと僕たちは計画しています。その革命団体のリーダーが僕の兄さんなんです」

「おー。やるじゃん。たしかに人の上に立つの得意だもんねー。ねね。俺らもその団体に入れてくれない?」

「ですが……」

「たしかに山田は極悪なんだけど、俺と葵ちゃんはそんなことないから!」

「いや、僕が極悪だと躊躇ったのは智雅の方なんですが」

「失礼だなあ。もう」


まただ。智雅くんと眼帯の弟は親しげに笑っている。私は山田さんと目を合わせてお互いに同じことを考えていることを理解した。山田さんは喋ることが面倒なのか、はたまたボロ服に着替えたときに没収された煙草や煙管が無くてイライラしているのか。私は山田さんに睨まれて、謎を解明すべく質問を投げ掛ける。


「あの、質問いいかな」

「はい、なんでしょう?」


私は挙手をして眼帯の弟に疑問を投げ掛ける。彼は笑顔で応じてくれた。


「智雅くんと弟さんって知り合いなの?」


眼帯の弟は快い笑顔のまま口を開き、しかしその声を聞くことはかなわなかった。
食堂に看守たちが大きな音をたてて入り、食事をしている数人の囚人をなにも言わず鞭で叩き始めたのだ。しかもその鞭にはトゲがあるのか、振るう度に鮮血と肉の破片が舞った。


「早く座っていた場所に戻った方がいいですよ」

「は、はい」


眼帯の兄は話していた男女と会話を終わらせると、粛々と食事を再開した。もう食堂には賑やかさなどなく、食器の音と鞭の音と悲鳴しかない。私は悲鳴を聞きながら食事を再開する。無視をしている私とは違って、眼帯の兄はその様子から目を離さない。
鞭の音はすぐに止み、そして殴られた囚人たちを連れて看守たちは一言も発することなく食堂を出ていった。


「な、なに? あれ」

「規則の違反者を処罰しているんです。あの者たちは独房が近くにあり、夜な夜な喋っているらしいですよ。それを看守たちが聞き付けたのでしょう」

「そうなんだ」


ただ私語をしていただけで肉を抉られるほど鞭で叩かれる。それは過剰な罰であり理不尽でもあった。しかし私はこれまでに何度も何度も理不尽受けてきた身だ。今さら何とも思わない。

世界は理不尽でできている。

私はそう考えている。残酷で、理不尽で、非情。どこの世界も醜く汚れて汚い。そんなものなのだ。


「……貴女のような女性はこういった光景を毛嫌いするものと思っていました」


驚いたような声で眼帯の兄は私の目を真っ直ぐ見た。まるで私に興味があると言わんばかりの目付きだ。彼はクスリとほくそ笑むと、残りのスープを口に入れた。
なんなんだろう。眼帯の兄の知り合いと私が似ているのだろうか。