あああ、もおおお。白昼の元に見るお化けなら平気なのに、なんで廃墟に……、寄りによって廃墟に! 呪い殺される!


「ひいっ!?」


なになに!? いま通った理科室からガシャンガシャンって破壊の音が!
ほんと怖い……。智雅くんと山田さん、どこに行ったの……。一人は心細い。早く別の世界にトリップしたい。こんな世界から出ていきたい……。

トボトボと廊下を歩く。キィキィと音を鳴らして床は私を迎えてくれた。項垂れながらも、取り合えず歩いて智雅くんたちを探すことに。きっといつかは見つかるはずだ。いつもは鋭い私の勘もいまや鈍っているものの。


「お化けなんかいないさ、お化けなんか嘘さ」


小さな声で自分に元気付けようと歌う。ほら、幽霊とかって気が落ち込んでるところに現れるらしいからさ。空元気でもなんでも、とにかく寄せ付けないようにしなければ。ゾゾゾと背筋を走る寒気なんか知らない。どこからか聞こえる呻き声も知らないから!
ズンズンと歩いて二階へ到着。ここまで智雅くんや山田さんに会うことはなかった。二人とも、どこに行ったんだろう。
ぶる、と体が震える。


「……あれ?」


あれ? ちょっと待って。恐怖で寒気がするのかといままで思っていたけど、この感覚……。まさか、トリップの前兆ではないだろうか。ついつい混濁してしまったが、まさか。まさか……。
これって不味いんじゃないの!?
私一人でトリップとか嫌だよ! あの地獄に再び戻るなんて考えたくない。
私は大慌てで、足を進めた。智雅くんと山田さんがどこに行ったのかわからない。手がかりもない。だが、探す足を止めるわけにはいかない。





「葵ちゃん、どこ行っちゃったんだろうねー?」


智雅は廊下に座り込み、あぐらをかいた。タバコを吸う山田は返事をしない。
教室に葵を残して妖怪を撃破し、彼女を呼びに教室を開けたときには葵は居なかった。まるで神隠しに会ってしまったかのように、彼女は行方不明になったのだ。


「だったら捜せばいいだろ。お前の異能とやらで」

「俺は適応能力と不老不死しか使わないの」

「シナリオか?」

「そうだね。シナリオの考えてることは分かんないよ」

「本当にシナリオの指示で、二つの異能しか使えないと思っているのか?」

「……俺、これだから神って大嫌い」

「光栄に思っておこう」


智雅からため息が漏れる。葵がいなくなって一時間近く経った。智雅たちは廊下からまったく移動していないというのに、葵はどこに行ってしまったのだろう。闇雲に探しては埒が明かないのでこうして待っているのだが、こうも音沙汰がないと不安にもなる。


「ねー、山田。葵ちゃんの居場所、知ってるでしょ」

「俺は探索の神ではない」

「で、葵ちゃんどこ?」

「二階だ」

「迎えに行くかー」


よっこらせ、と智雅が立つ。拳銃を片手に持ったまま、山田を引き連れて歩き出した。その道中に現れた怪異は智雅が問答無用に銃撃した。やや不満そうな表情になる智雅を山田は鼻で笑う。


「よっ、葵ちゃん!」

「なんだ。ベソをかいているのか。汚ねぇ」


廊下の先で困り果てて弱っている葵を発見。合流した。それから葵は何がなんでも智雅と山田の裾から手を離すことなく、丸三日が過ぎたところでやっとトリップした。
三日目にはさすがに怪異にも慣れたようで、葵は投げ技を決めるほどまでに成長していた。が、苦手意識そのものの克復はできていない。再びこの世界に来るとしたら、葵はまた叫び散らかすだろう。