からかってみようかと思ったのに思わぬカウンター。
私は口をモゴモゴとさせながら、返す言葉もなく伏し目がちに目をそらす。隣から智雅くんが私をからかっているが反抗などできない。

そんなこともつかの間。ひたひたとつい先ほども聞いた音が廊下に再び響き、私は硬直した。私は反射的に教室に引っ込む。怯える私を面白がって智雅くんと山田さんはゆっくりと教室に入ろうとした。が、怪異のいるこの廃校は何が起こるのかわからないものである。扉がいつまでも開いているとは限らないのだ。
私一人が教室に入ったとたん、バンと大きな音をたてて扉が閉まった。廊下に智雅くんと山田さんを残して。


「えええええ!?」

「あ、ちょ、葵ちゃん!」

「なるほど、怪奇現象だな」


廊下越しに分断されてしまった! しかも私一人で! 怖い!
扉を開けようと取っ手をつかんで、これでもかと全力を出したのに無駄に終わった。廊下から智雅くんに「葵ちゃん、そこで待ってて!」と言われたので、とりあえず来てくれることを信じて待つことにした。
……。
廊下で智雅くんの撃つ銃声が響き渡る。
……こわい。
気を紛らわせるものでもないかと周囲を見渡してみたが、肝心の学生鞄は智雅くんが持っているようだ。ど、どうにも周囲に気が散って、小さな埃でさえ気にしてしまう。あの天井に幽霊が張り付いているかもしれない。もしかしたら机と机の間に子どもの幽霊がこっちを覗き見ているかもしれない。もしかしたら不気味な女性が窓の外に浮いてるかもしれないいいうああああああ……。
……怖いんですけど。


「ど、どうしよう。もし智雅くんや山田さんと合流出来なかったら!」


ほんとむり。しんじゃう。
鳴り止まない銃声だけが唯一の安心だ。これなら誘拐されたり殺されそうになったり拷問されてるほうが楽だよ……。腕の傷跡を擦りながら重たいため息を吐く。生きてまたトリップできるのかしら。ああ、悩ましい。


「……」


あれ? 物音が止んだ? 銃声が止まった?
私はすぐに扉へ駆けて、再び取っ手を引いた。今度は扉が開いた。よかった! しかし、その先の廊下には誰もいない。つい先程まで銃声が鳴っていたというのに、それが嘘のように静まり返っているのだ。あるのは廊下を吹き抜ける冷たい風のみ。


「え……。そんなバカな」


背中を走る寒気。吐き気がするほどの恐怖。

あ、ああああ、あああ……。

壊れた機械のような呻き声が背後から聞こえた。誰か後ろにいる。背後に何かいる! 智雅くんの悪戯だと思いたいところだが、全く別の声質だということはすぐに分かってしまう。
あああああ、神様、仏様、山田さん。まじでヘルプ……。